スマート農業の可能性(第2回):新型コロナ禍の労働力不足に対応する緊急実証事業

 茨城県は外国人技能実習生への依存度が高い地域で、主要農産物である米やキャベツ、ソバなどの栽培での農薬散布や追肥などの作業を技術実習生たちが担ってきた。これらの作業をドローンを活用することで効率化し、かつ快適化しようという実証が展開されている。

 ドローンを利用した診断・空間情報技術、施肥・農薬散布などの総合的な効果により投入労働力を約20%抑え、さらに栽培管理で作物の生育の個体間格差を抑制することなどで収穫時期の均一化を図り、収穫効率を向上させて約10%の労働力の低減を目指している。

 同じくドローンの活用で、北海道幕別町で進められている実証事業では、帯広農業高校や帯広工業高校などの生徒を対象にした先端の農業ICTの習得に力が注がれている。ドローンによる農薬散布作業免許の取得講習や生育状態を把握する技術の習得、作業時間を軽減させるためのポイントの学習、さらにはジャガイモシスト線虫の発生地域への対応を学ぶなど、いずれも座学と実践講習を用意した。

 北海道別海町での「オールICTシステムファームにおける労働力不足解消技術体系の実証」では、ホルスタインと和牛の複合生産に導入されている搾乳や哺乳の自動化システムを別海高校や中標津農業高校、標茶高校などの生徒が学ぶ。

 最先端のICTに詳しい酪農人材を育てることで「繁殖管理」「分娩管理」「給餌管理」「子牛飼養(健康)管理」などで、いずれも30%の労働力低減を目指している。

 長谷川調査官は、「今回の実証事業では、採択された1地区当たりの予算に上限を設けない代わりに、労働力削減や実習生の知識習得レベルなどについて、明確な到達目標を設定してもらっています。単なる助成にとどまるのではなく、次世代の農業の在り方、担い手の育成などについて、より実証的な事業とするためです」と説明する。

鈴生(静岡県菊川市)の実証はブロッコリーを対象作目として展開

スマート農業の可能性(第2回):新型コロナ禍の労働力不足に対応する緊急実証事業

「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」への取り組みが、労働力不足の解消はもちろん農業経営のさらなる改革へとつながっている事例を静岡県菊川市に訪ねた。

スマート農業の可能性(第2回):新型コロナ禍の労働力不足に対応する緊急実証事業

 鈴生(すずなり、鈴木貴博社長)を事業主体とする「加工業務用ブロッコリーのスマート機械化一貫体系の実証」だ。この事業は、鈴生だけでなく静岡県経済産業部、ヤンマーアグリジャパン、日本農業サポート研究所、静岡県立農林大学校も構成メンバーとして参画している。

 鈴生を中心とする実証事業は、10ヘクタールのブロッコリーの露地栽培で①自動操舵トラクターを導入して土起こしや畝立ての作業時間を17%削減する、②AI付き全自動移植機を導入して定植作業の時間を72%削減する、③ブロッコリー収穫機を導入して作業時間を65%削減する、④全体の作業時間を31%削減する、という4つを目標として始められた。

スマート農業の可能性(第2回):新型コロナ禍の労働力不足に対応する緊急実証事業鈴生の鈴木貴博代表取締役社長(鈴生グループ代表)。収穫作業を前にしたブロッコリー畑で

 2020年6月に実証事業の委託を受け、栽培は8月から始まった。①土起こしと畝立ての作業時間では10アール当たり3時間かかっていたのが、目標値の17%削減をクリアする見込みだ。②定植作業の方も72%の削減を見込んでいる。

 鈴木社長は、「耕耘や畝立てでは、熟練した技術が必要なトラクター作業において誰でも真っすぐで均一な幅の作業ができ、その後の定植や管理のロスをなくすことができました。作業員の疲労軽減効果も大きい。また定植作業は、これまで7~8人で行っていましたが、1人が運転し、1~2人が補植するだけになり、多大な労力を要していた作業が大幅に軽減しました」と語る。

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