スマート農業の可能性(第2回):新型コロナ禍の労働力不足に対応する緊急実証事業

農林水産省

労働力不足への対応にとどまらず、新たな農業改革の芽ともなる実証事業

 鈴生は、7社の子会社を束ねる農業法人グループで、夏は約25ヘクタールの畑での枝豆、冬は約103ヘクタールの畑でのレタスの栽培を主としてきた。グループ従業員は正社員が70人、パート従業員が50人ほど。大手外食チェーンや高速道路会社と合弁の農業法人を設立したり、大手青果卸売市場と太陽光型植物工場を運営、また資材販売会社と一緒にチルド物流会社を運営し、自社配送している。

 鈴木社長は、「農業は、百姓とも言われます。百姓とは、百の仕事をこなせる人という意味で理解しています。百の仕事を一人でやるから効率が悪くなります。ならば作業を分業し、百の仕事で百人の社長がいるような農業経営の在り方を考えれば日本の農業を変えられるのではないかと思います」と語る。

 2020年はタイやインドネシア、フィリピンなどから15人の技能実習生を受け入れる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大による入国制限でかなわなくなり実証事業に応募して委託を受けた。

 鈴生の実証事業への応募は、直接的には労働力不足への対応がきっかけだったが、それとは別の経営課題への対応にもつながっている。実証事業の対象作目がブロッコリーであるのが注目点だ。

 ブロッコリーは、その高い栄養価から米国を中心に世界的な人気素材になっている。そのために生鮮ブロッコリーの輸入量は急速に減り、一方で加工用の冷凍ブロッコリーの輸入が増え、日本国内のシェアは80%にもなっている。当然、輸入単価も上昇している。

鈴木社長が乗っているのがブロッコリーの自動収穫機で、キャベツの自動収穫機を基に開発された。右側にある収穫用機器、トラクター部分、後部の作業台の3つから成っている。自動操舵トラクターなどと共に労働力削減の“主力”だ

 鈴木社長は、「ブロッコリーも含めた国内の露地野菜栽培は限界に直面している」と語る。人手がかかり、栽培管理にも手間が多い。また、近年の台風被害の甚大化傾向に対応する必要もある。機械化により、人件費の削減をし、規模拡大を図らなければ利益を維持する農業には限界がある、と言うのである。

「農業では1つの作物をある程度の規模で事業化しようとすれば最低でも数千万~数億円はかかります。これだけの資金を回収できる付加価値の高い作物を国産で栽培するには、大規模農地での機械化は不可欠であり、施肥や品種改良、除草などのノウハウも蓄積して、種子、肥料、農薬、機械など農業に関わる全てのメーカーが1つとなり農業の在り方を探らなければなりません」(鈴木社長)

 例えば太陽光型植物工場では、株主である卸売市場を通じて外食産業などの実需者と連携し「メニュー先行型の野菜作り」を志向する。サラダほうれん草ならば定植後約2~3週間で出荷できるので、休耕期間を含めても年間17回転は可能だという。つまり需要に即応できる栽培体制を整えることで廃棄ロスを減らしたり、価格の安定化が狙えるのだ。

 ブロッコリーでは例えば、生鮮での販売は現在は1株ごとに売られている。しかし、鈴木社長はすでに大手青果卸会社にも緊急プロジェクトへの協力を依頼し、花蕾を小口にして袋詰めで売り出すなどの販売戦略を練っている。

鈴生の総務責任者である繁田明日加氏。外国人技能実習生の手配などで苦労を重ねてきた

 小袋にQRコードを付け、そのブロッコリーの生育過程(トレーサビリティー)や生産者の作業が見られるような工夫も考えている。

「加工業務用ブロッコリーを、中食(惣菜)・外食向けに生産することで、一株売りではなくキログラム単価で販売できる。それにより、反収の向上につなげてきた。今後は加工業務用を中心に、機械化による一斉収穫でのサイズのバラつきを考慮して、サイズの小さいものは青果で販売するなど、収益の安定化を目指したい」(鈴木社長)

 労働力不足への対応から始まった実証事業だが、それだけにとどまらない可能性を拡げている。

●問い合わせ先
農林水産省 農林水産技術会議事務局
https://www.affrc.maff.go.jp/
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