Evernoteスマートノートブック by Moleskine

 手帳にメモする――それは、アナログ最後の牙城とも言える行為だ。思うがままに書き込め、挿し絵も手書きで入れられる自由自在さは、デジタルではまだまだ満たされていない分野の代表例。心に残った言葉や、アイデア構想を手帳に書き留めている人は今なお多いし、旅先の切符や拝観券を貼り付けた一冊ともなれば、ページの折れや染みまでが価値あるものになってくる。

 とはいえ、後から探しづらいのがアナログの宿命。出張先のホテルでふと昨年のアイデアが気になったとしても、当時の手帳が手元になければ後の祭りだ。いっぽうデジタルの真価は、検索一発ですぐに探し出せること。手帳をスキャンしてEvernoteに入れておきさえすれば、どこからでもスマホで確認できるし、日本語の手書き文字でもけっこう認識してくれる。それはわかっていても日々増えるメモのデジタル化が億劫で……という人に、朗報となるコラボ商品がこの秋登場する。

 10月1日に全世界同時発売となる「Evernoteスマートノートブック by Moleskine」は、ページを束ねるゴムバンド、表紙裏の大きなポケットといった高級ビジネス手帳モレスキンの品質や特徴はそのままに、iPhone/iPad用Evernoteアプリのページカメラ機能で手書きメモを撮影するだけで、自動的に画像補正が行われ、そのままクラウドにアップできるというもの。さらに、付属のシールをメモに貼るだけで、Evernoteのタグ付けまでも自動でしてくれる。

本品は今のところ通販のみとなっているが、有楽町ロフト内のショップでは発売日から店頭で買えるという。また、Android版Evernoteも、近々本品に対応する予定だ。

 スキャナーに読ませて画像補正をする手間があるかどうかの違いとも思えるが、市場の反響は予想以上で、8月25日に公式オンラインショップで予約受付を開始して以来、平常の月平均件数の6~7倍にもなる予約がこの商品に殺到したという。

「モレスキンでは通常横罫(Ruled)が一番よく売れるとのことなのですが、スマートノートブックの場合は方眼(Squared)のほうがよく売れていて、売れ筋が逆転しているようです。文字はデスクトップやスマートフォンで簡単に書けるので、図や絵などを自由に書き込める方眼を好むユーザーが多いのかもしれません」(Evernote Japan/Director of Marketing & Communications/上野美香氏)とのことだから、すでにEvernoteを愛用していて、これを機に手書きノートへ、憧れのモレスキンへと踏みだした人が多いことが想像できる。ちょっとした便利さの加味が、そんな人たちの背中を押す効果をもたらしたのだ。

 このコラボが生まれたきっかけは、Evernote社CEOのフィル・リービン氏の着眼だった。事業スタート以来、ものを記録する商品/サービスの市場での評価を調査・研究してきた彼は、「紙とペン」がEvernoteに続く次位にあることに気づき、紙とペンこそがライバルだと悟って、どう競争したものか思い悩んだという。

 しかし、記録するという目的は同じでも、アナログとデジタルでは、特徴や利点が大きく異なる。ならば競争より共存だと、自身もモレスキンの愛用者であるルービン氏から申し入れるかたちで、コラボが実現したというのだ。

「『手書き=脳内ハードディスクへの記録』『タイピング=外付けハードディスクへの記録』であり、脳に与える影響が根本的に異なるアクションです。今回のコラボレーションは、両者のいいとこ取りとも言えると思います」(〔MOLESKINE 日本総輸入代理店〕カファ有限会社PR/広報担当 砂原明子氏)

 こう書くと本品が発売されたのは必然とも思えるが、商売敵同士が相手に勝てない部分を見極めてそこを逆に利用することでWin-Winなコラボに成功した、稀有な事例とも言える。こういう発想はなかなか出てこないものだ。そこを突破してユニークな製品/サービスを実現した一例として、大いに注目したい。

(待兼音二郎/5時から作家塾(R)