コロナ禍では、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。
相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuber税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は4.8万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し(12月2日刊行)、現在2.8万部。遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。
【イラスト:伊藤ハムスター】(この記事は2020年11月27日付けの記事を再構成したものです)
認知症が引き起こす「相続トラブル」とは?
認知症を発症したら、相続対策はできなくなると考えてください。
認知症になった人は、法律上「意思能力のない人」と扱われる可能性があります。意思能力のない中で行われた法律行為(遺言書を書く、生前贈与をするetc)はすべて無効で、法的効力を持ちません。
とはいえ認知症の症状には波があり、調子がよければ遺言書を作ることも、契約書に署名押印をすることも可能です。しかし、これがトラブルの原因になります。
例えば、自分にとって不利な内容の遺言書があった場合に「この遺言書を書いたとき、母は既に認知症と診断されていました。そのため、この内容は母の本当の気持ちではなく、無理やり書かされたものだと思います。よってこんな遺言は無効です!」と裁判に発展するケースがよくあります。
認知症の症状があったかどうかは、医師の診断書のほか、介護施設の介護記録、実際に介護をしていた家族の証言等から、総合的に判断されます。
裁判の結果、遺言書が無効とされたケースも多数存在しますが、医師の診断書等の客観的な証拠がある場合がほとんど。証拠もなく「母は認知症だったに違いない!」と言いがかりをつけても、基本的には通りません。
生前贈与も同様です。贈与契約書にサインしたり、送金の手続きはできたりするかもしれませんが、後々になって他の相続人から「母は認知症だったから、贈与することなんてできなかったはず。あなたが勝手に母の口座から自分の口座に送金しただけでしょ」と訴えられることもあります。
ただ、認知症といってもさまざまです。お医者さんから診断されるレベルもあれば、そこまではいかないが、痴呆の症状が見え隠れする状態もあります。
「医師からの診断さえなければセーフなのか?」と考える方も多いのですが、この論点には明確な線引きがありません。
認知症との診断がなくても、介護記録や家族の証言等から、遺言書や贈与契約が無効とされたケースも実際にあります。では、どうすればいいのでしょうか?