「気の合うメンバーだけで固めたチーム」は居心地がいい。しかし、その快適さが判断力を鈍らせ、成果を遠ざけているとしたらどうだろうか。『ワークハック大全』には、チームに「異なる視点」を取り入れることの重要性が、具体的な実験データとともに示されている。本記事では、世界18ヶ国で刊行された本書の内容から、「多様性がチームの成果を左右するメカニズム」を紹介していく。(構成:ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

すごくチームワークの良い人たちPhoto: Adobe Stock

「仲良しチーム」の落とし穴

 2025年、アメリカではトランプ政権のもとでDEI(多様性・公平性・包括性)施策を縮小する企業が相次ぎ、「ダイバーシティは本当に必要なのか」という議論が再燃した。

 一方、日本では少子高齢化による労働力不足を背景に、多様な人材の活用がむしろ加速している。

 このように多様性をめぐる世界の潮流は揺れ動いているが、科学的なエビデンスは一貫した事実を指し示している。本書で紹介されているのは、アメリカの大学で行われた「殺人ミステリー実験」だ。

 実験では、まず学生が1人で20分間、殺人事件の資料を読む。その後、同じ学生寮のメンバー2人と犯人について議論を始める。ここまでは全グループ共通だ。違いが生まれるのは、開始5分後である。

 片方のグループには同じ学生寮から別のメンバーが1人加わり、もう片方には面識のない学生が1人加わった。

 結果は明白だった。仲間だけのグループは議論を楽しみ、自分たちの結論に自信を持っていた。

 ところが正解率を見ると、部外者のいたグループが60パーセントだったのに対し、仲間だけのグループはわずか29パーセントだった。

「居心地の良さ」と「判断の正しさ」はまったく別物だったのである。

 楽しそうに話しているのに、答えは間違いだらけ。飲み会のカラオケで「自分、歌うまいよね?」と聞いて「うん!」と返してくれる仲間と似ている。気分はいいが、現実はちがう。

 著者はこの実験結果を受けて、チーム構成における多様性の意味を強調する。

異なる視点を取り入れることは、とても重要だ。そうしなければ、グループは「長いものには巻かれろ」式の怠惰な集団思考に陥りやすくなってしまう。(『ワークハック大全』より)

 ここで言う「集団思考」とは、心理学で「グループシンク(集団浅慮)」と呼ばれる現象のことだ。

 全員が同じ方向を向いていると、誰も「それ、本当に正しいの?」と言い出せなくなる。反対意見が出にくくなり、チームは自分たちの判断を過信してしまう。

多様な企業ほど収益率が高い

 では、こうした多様性の効果はビジネスの現場でも確認されているのだろうか。本書では、コンサルティング会社マッキンゼーが2015年に実施した調査が紹介されている。

 この調査は、人種や性別の多様性が上位25パーセントに入る企業と、収益率が平均以上の企業との間に相関関係があることを明らかにした。

 具体的には、人種・民族の多様性が高い企業は平均より35パーセント、ジェンダーの多様性が高い企業は平均より15パーセント、それぞれ高い収益率を示していたという。

 ただし、著者はこのデータの解釈について冷静な視点も忘れない。

つまり、多様性が最良の結果を生み出しているというよりも、多様性のある企業に優秀な社員が多いということを示している。それでも、「異なる視点を組みあわせることが良い判断につながる」という、世間でよく耳にする表現は、やはり正しいものだと言えそうだ。(『ワークハック大全』より)

 相関関係と因果関係は別物である。「多様性があるから儲かる」と単純に言い切ることはできない。

 しかし、優秀な人材が多様性のある企業に集まっているという事実は、それ自体が大きなメッセージである。

 人種の多様性がある陪審員実験でも、多様なグループは均質なグループより平均11分間長く審議し、証拠に関するミスも少なかった。多様性は「正しさ」だけでなく、議論そのものの質を底上げする力を持っている。

「居心地の悪さ」を味方にせよ

 とはいえ、多様なメンバーをチームに入れることは、快適さとトレードオフの関係にある。

多様なメンバーで構成されたグループにいることは、常に楽だとは限らない。そのグループが「基準」だと見なすものに忠実なメンバーでグループを構成するのは、自然なことなのではないかとも思える。しかし、この発想は危険だ。(『ワークハック大全』より)

 海外に移住しても同郷の人と寄り集まるのは、まさにこの傾向の表れだ。似た価値観の人といれば、考え方やユーモアのセンスも合うから、努力しなくて済む。

 本書の考え方を実践に応用するならば、まずは「自分と違うタイプの人」を1人、意識的にチームに加えることから始めるのがよいだろう。殺人ミステリー実験でも、たった1人の部外者が加わるだけで正解率は倍増した。

 大がかりな制度改革は必要ない。会議に別部署の人を呼ぶ、異なる世代の意見を聞く、社外の知人にアドバイスを求める。こうした小さな一歩が、チームの判断力を変えていく。

 哲学者ジョン・スチュアート・ミルは、自分と似ていない人とつきあうことの価値を1848年の時点ですでに説いていたと、本書は紹介する。

 約180年前の洞察が現代の心理学実験で裏づけられているのだから、「異なる視点」の力はもはや疑いようがない。

 似た者同士の居心地の良さに甘えず、あえて「ちょっと気まずい」チームをつくること。それが、仕事の成果と充実感の両方を手に入れる最もシンプルな方法なのである。