コロナ禍では、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。
相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuber税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は4.8万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し(12月2日刊行)、遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。
親の介護とネコババ問題
相続争いの典型例と言っても過言ではないのが、「生前中、故人の預金を相続人が横領していたことが発覚する」ケースです。
親に介護が必要な状態になると、親の通帳・印鑑・キャッシュカードを同居している子どもが管理するようになるのは珍しくなく、両者が同意しているなら法律上も問題ありません。
問題は、親が亡くなり相続が発生した後です。親の通帳から引き出した現金の使い道がトラブルの火種となります。
「現金をどう使った」はブラックボックス化しやすい
親と同居している子どもは、親の食費、医療費、その他介護に必要な費用の支払いのため、親の通帳から現金を引き出します。そんな中で相続が発生すると、他の相続人から「生活費や医療費にしては、現金の引き出し額が多すぎる! ネコババして現金を隠しているんでしょ!」と疑われることがあります。
疑われた方も黙ってはいません。「介護を私ひとりに押しつけたくせに! いい加減にしてよ!」と憤慨し、相続争いに発展します。
通帳から引き出した現金の使い道を明確にするのは非常に困難です。領収書をすべて保管していない限り不可能です。
ただ、私の経験上、「これだけ多くの引き出しを、すべて生活費で使い切ったと主張するのは無理があるでしょ……」という不自然な現金引き出しをしていた方がいるのも事実です。具体的に言えば、年間で1000万円近くとか。
80代くらいのお年を召された方は、すでに子育ても、住宅ローンの返済も終えられている方がほとんどです。そのような方にとって、現金による支払いが必要で、かつ、内訳が不明となる出費というのは、非常に限られています。
水道光熱費や通信費、固定資産税の支払いが通帳から引落としになっている場合は、現金を使いません。医療費は、現金で支払うことも多いですが、所得税の確定申告における医療費控除の明細を辿れば金額と内訳を把握することができます。
場合によっては健康保険の履歴を取り寄せることも可能です。施設に入っている方であれば、利用料の明細を取り寄せれば、生活費の金額と内訳を把握することができます。そうすると、本当に現金で支払い、かつ、内訳がわからなくなる出費は、日常的な食費や旅行費くらいしかありません。
それを踏まえると、「80代のお婆ちゃんが、年間で、食費や旅行費に現金1000万円を使った」という主張は、無理がありますよね。