「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。
経営陣ストーリーの
言語化/自己マスタリー
事業のフェーズのどの段階にあっても、起業家(CXO)は定期的に「内省」「メンバーとの対話」を行い「自己認識の向上」に務めるべきだ。「CXOにとって最も重要な能力を一つ挙げると何か?」と聞かれたら、私は間違いなく「自己認識力」と答えている。
つまり、自分自身のことをどれだけ深く知っているか、自分の思考パターンや思考の癖、現在の事業をするに至ったストーリーなどを明確に言語化できる能力がキーになる。
外部環境が激しく変化する中で、一番強いのは「学習する組織」であるとアメリカの経営学者ピーター・センゲは喝破した。
これは、組織の最小単位である経営者個人(チームメンバー個人)にも同様のことが言える。外部環境が激しく変化し、様々なインプットがある中で、高い自己認識力や自己客観視力を持ち、自分を変化(進化)させながらアウトプットできるかが、組織全体を正しい方向に導けるかの鍵だ。
自己認識力を持つというのは、自分の人生のコンパスの方向を明らかにしていることである。SHOWROOM創業者で社長の前田裕二氏は書籍『人生の勝算』(幻冬舎)の中で、
「自分は何を幸せと定義し、どこに向かって努力すれば良いのかを指し示してくれる人生のコンパスが必須不可欠だ」
と語っている。
「なぜ自分は、この事業や課題に取り組むのか?」「自分がやる必然性は何なのか?」これらの質問をされたときに、あなたは答えることができるだろうか。
認識力には内面的自己認識と外面的自己認識の二つの軸がある。
内的自己認識とは、自分が何者であるか、どれくらいよく分かっているかで、外的自己認識とは、他人からどのように見られているかを理解していることになる。経営陣としては、メンバーと連携/協力して、エンゲージメントを引き出すために、両面の認識力を持つのがキーとなる。