「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握ってる。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。
 本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していくが、連載の第1回は、鼎談形式でお届けする。今回ゲストとして登場していただくのは、テラモータース/テラドローン代表取締役社長の徳重徹氏と、デロイト トーマツ ベンチャーサポート代表取締役社長の斎藤祐馬氏のお2人だ。スタートアップで成功するためには、何が重要なカギとなるのだろうか?

スタートアップが成長する過程で、ゼロイチの起業家は、事業家、経営者へと自己変革する必要がある左から徳重徹氏、田所雅之氏、斎藤祐馬氏の3人(収録は2019年12月25日) 撮影:石郷友仁

起業家から事業家・経営者になるための
いちばん大事な要素とは?(田所)

スタートアップが成長する過程で、ゼロイチの起業家は、事業家、経営者へと自己変革する必要がある田所雅之(たどころ・まさゆき)
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規 事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)がある。

田所 本日は、よろしくお願いいたします。ありがたいことに、また本を出すことになりまして、それが『起業大全』です。『起業の科学』(日経BP、2017年9月)では、主にプロダクトマーケットフィット(Product Market Fit:市場で顧客から支持される製品やサービスを作ること)について詳しく書きました。でも、大事なことは、そこからさらにユニコーンなりメガベンチャーになることです。今回の『起業大全』では、僕なりにスタートアップからユニコーンやメガベンチャーになるために必要なことを網羅しました。

徳重 おもしろそうですね。

田所 ありがとうございます。それでは、僕のほうから質問させていただきますが、徳重さんは今もうグローバルでどれぐらいの規模感でやられているんですか。人数とか、売上とか、拠点数でいうと?

徳重 EV(Electric Vehicle:電気自動車)のほうが今3拠点やっていて、バングラ、ベトナム、インドでやっています。こちらは今、上場に向けて準備に入っているんですけど、ドローンのほうは、拠点は20ヵ国以上あるんですけど、人数は450人ぐらいですね。こっちは3年半ぐらいですね。

田所 最近すごく思うのは、一応プロダクトマーケットフィットするまでは、いわゆる0ー1(ゼロから事業を立ち上げる)の起業家じゃないですか。でも、徳重さんも斎藤さんもそのレベルじゃないと思うんですけど、実際ゼロイチがあって、そこから1→10にして、10→100にスケールする過程で、やっぱり起業家から事業家になる要素があると思うんですね。

徳重 経営者になるということですね。

田所 はい。それで、経営者の素質ってあると思うんですけど、そこで徳重さんはグローバルにオペレーションをされていますけど、起業家から事業家、経営者になるためのいちばん大事な要素って、3つぐらい挙げるとすると何だと思いますか?

徳重 今、まさに僕もそれをやっている途中ですけど、やはり、いちばんは会社のビジョンというか、目指すべき方向がしっかり決まっている、持っているというのがまずないといけないんじゃないかなと。それに基づいてやっぱり大事なのは、その規模になると1人だけで全部できないじゃないですか。

 私の下に今10人ぐらいついているんですけど、その人たちがいかにすごい人たちで、かつ、もちろんビジョンにも共感できて、できれば私の7掛けぐらいの経営能力があるというか。今時ではすごく難しいんですけど、それを失敗とか挫折を繰り返させながら、鍛えていっているという感じです。