「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。
起業家から事業家(CXO)になるために必要な
「人材マネジメント力」
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長 1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務める。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『起業大全』(ダイヤモンド社)がある。
どんなにテクノロジーが進化し自動化が進もうとも、事業を構成する最も重要な要因は人である。今回からしばらくは、CXOとして持つべきHR(Human Resources:人的資源)の視点をお届けする。
私はこれまで数多くのスタートアップを見てきたが、PMFしたスタートアップがスケールできない大きな要因の一つが人材に関する戦略や知見がなく、成長のボトルネックになっているという点だ。
実行するべき戦略が定まったら、それをベースに採るべき人材について考える「組織は戦略に従う」という視点もある。
一方で『ビジョナリー・カンパニー② 飛躍の法則』が提唱するように「誰をバスに乗せるか」(=どういう人材を取り込むか)によって、選択できる戦略や施策の幅も決まってくる。
いずれにせよPMFして、スケールを目指す状態になったときに、CXOを一番悩ませているのが「人」「組織」の課題である。戦略を実行する十分な人材がいない、人材を採用してもすぐに辞めていく、そもそもメンバーのエンゲージメント(愛着心)やモチベーションが高くないので成果を上げることができない、など様々な課題に直面する。
起業家から事業家(CXO)になるため、一皮むけるための重要な要素の一つが、「人材マネジメント力」と言える。
CXOに人材マネジメントの知見が欠けていると以下のような事態になり、成長の大きなボトルネックになってしまう。
●人材戦略がなく、行き当たりばったりになっている
●自社のことについて、明文化されていないなど魅力化できていない
●採用のプロセスや基本の型がない
●いちいち命令やオーダーをしないと動かない
●メンバーのエンゲージメントやモチベーションを計測できていない
●メンバーのエンゲージメントやモチベーションを高める施策を知らない
●成長戦略と人材戦略を統合することができない
後ほど、エンゲージメントとモチベーションの違いは解説する。
せっかく良いプロダクトを作り、PMFを達成できたにもかかわらず、こういったボトルネックを解消できずに、成長への軌道が描けないのは非常にもったいない。