「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出ないのか?」――。
この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の最新刊『起業大全』(7/30発売、ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に時価総額が高い未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を想像する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンになるためには、経営陣が全ての鍵を握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏が本の中に込めたメッセージだ。本連載では、「起業家」から「事業家」へとレベルアップするために必要な視座や能力、スキルなどについて解説していく。
代替ソリューションが存在しないかを検証する
現在の市場の姿や少し先の未来の市場を明確にしたら、下のGo-To-Marketの図表の縦軸のセグメントのところをアップデートする。ここではそれぞれのセグメントの現在の市場の大きさが黒字で15000件、45000件などと書かれている。そして、数年後の2023年の数字が赤字で17000件、42000件と書かれている。
それらを踏まえた上で、その右側のバリューチェーンのところで代替案の有無や有効性を明確にするのだ。図表の例で言えば、赤い四角で囲んだ「代替ソリューションなし」というセグメントが攻める市場として有望ということになる。
「あなたが解決しようとしている課題の現状の3つの代替案を教えてください」
「それに対してあなたの提供するソリューションは、顧客から見たときにどう優れているか定量的、定性的に教えてください」
上記2つは、私がベンチャーキャピタル(VC)をやっていた際に、投資判断するときや、スタートアップを審査するときに必ずしていた質問だ。
たとえ、どんなに尖ったソリューションや、PFMF(Product future market fit)を意識したものであっても、何らかの形で代替ソリューションは必ず存在する。
しかし、その代替ソリューションがカスタマーにとって「不便なのにやむを得ず使っている」「高価過ぎるが、他の手立てがないので使っている」など、現状に不満を抱いているかどうか、見極めるのが重要である。
もし、代替案に対して、既存ユーザーが不満タラタラなら参入の余地があるだろう。アマゾンは、マイナーな書籍を読みたい人の現状の代替案が「大型図書館」であるという事態に気づいて、この領域からPMFすることができたのである。
また自覚していただきたいのが、起業家というのは自社のプロダクトや仮説を「過大評価」し、代替ソリューションを「過小評価」する傾向があることだ。ビジョンや熱いパッションを持って、事業に取り組むことは非常に重要だが、同時に、客観的で冷静なクールヘッドを持つことも重要だ。
このGo-To-Marketのプロセスは、まさに、市場でスケールしていくというビジョンを持ちながらも、冷静に戦略(どこで戦うか)を整理していくためのフレームワークになる。