【名義預金判定のポイント1】両者の認識の合致
1つは、「あげた、もらったの約束がきちんとできていたかどうか?(両者の認識の合致)」です。生前贈与は民法第549条にその定義があります。
「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」
これが贈与の定義です。贈与は、あげる人が相手に「あげます」という意思を表示し、相手(もらう人)が「もらいます」という意思を表示して、初めて効力を生ずる契約とされています。
つまり、「あげます」と「もらいます」の両者の認識の合致がなければ、贈与契約は成立しないのです。この点を踏まえて、世の中でよくあるケースを考えてみましょう。
将来の相続税対策を考えるA子は、孫(20歳)に対して、毎年110万円ずつの生前贈与をしようと考えていました。しかし、まだ学生である孫に毎年110万円も贈与してしまったら、金銭感覚を大きく狂わせてしまい、教育上良くないと考えました。そこでA子は孫から通帳(孫名義)を借り、その通帳に毎年110万円ずつ振り込み、積み立て貯金をすることにしました。
孫にはそのことを伝えず、通帳やキャッシュカードはA子の金庫に保管していました。このケースにおいて、贈与契約は成立しているでしょうか。A子はお金を振り込んでいるので「あげます」という気持ちはあったかもしれません。
しかし、孫は贈与を受けていることを知らされていませんので、「もらいます」という意思表示はなかったことになります。この事実が調査官に知られると、「あげた、もらったの約束ができていない以上、贈与契約があったとは認められません」と言われ、孫名義の通帳にあるお金も、実質的にはA子の財産として相続税の対象になります。
このような相手方(孫)に秘密の生前贈与は税務調査で100%アウトです。今紹介したのは「あげた認識はあるけれど、もらった認識はない」というケースでしたが、逆のパターンも存在します。「もらった認識はあるけれど、あげた認識はない」というケースです。
多いのは意思能力のない親の通帳から子どもが勝手に自分の通帳に送金するケースです。重い認知症を患っていた親からの送金や、相続開始直前の昏睡状態の間に行われている送金は、もらった側の人がいくら「もらった認識があります」と主張をしても、「あげます」という意思表示はなかったと認定されれば、贈与契約はできていなかったとして名義預金とされてしまいます。
では、2つ目のポイントを見ていきましょう。