業績不振が続く半導体大手、ルネサスエレクトロニクスに対し、官民で経営再建を支援する案が浮上した。官民ファンドの産業革新機構が中心となり、国内の大手メーカーなどと共同で1000億円超を出資する案が検討されている。
ルネサスをめぐっては、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が1000億円規模の支援をすでに提案している。ここにきて、官民による対抗案をまとめようと革新機構が動いている最大の推進力は、「KKR案を懸念したトヨタ自動車」(関係者)なのだという。
ルネサスは、自動車や家電などの電子機器を制御する「マイコン」と呼ばれる半導体の世界トップ企業。中でも自動車用マイコンは世界シェアの約4割を握る。昨年3月の東日本大震災で茨城県の主力工場が被災し、トヨタなど自動車メーカーへのマイコン供給がストップ。自動車業界をはじめ、多くの企業が力を結集して復旧に当たったことは記憶に新しい。
一方で、震災の復旧劇は、国内メーカーにとって、マイコンの長期的な安定調達への意識が高まるきっかけにもなった。
KKRは大胆なリストラでルネサスの業績を回復させた後は、外資などに売却するとみられている。外資傘下に入った場合、製品ラインアップの見直しや、供給の優先順位の低下など、調達リスクの高まりは必至だ。そこで、トヨタがKKR案阻止のため、“お金持ち”の革新機構にハッパをかけているのが真相のようだ。
今後、革新機構は国内メーカーなどに出資を呼びかける予定だ。どれだけの企業が応じるかは不透明だが、KKR案に対抗するためには最低1000億円は必要。官民の救済案が実現した場合、革新機構を通じ、相当額の税金が投入されることになる。
ただ、革新機構の本来の目的は、次世代を担う産業の育成だったはずだ。大手メーカーがリスク回避のために革新機構の金を頼ろうとするのは、虫がよ過ぎやしないか。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)