12月3日、ドンキホーテホールディングス(HD、現パン・パシフィック・インターナショナルHD)前社長の大原孝治氏が東京地検特捜部に逮捕された。当時、上場企業のトップだった人物が、公表前の内部情報を基に知人へ自社株の購入を勧めた金融商品取引法違反の疑いで逮捕されるという、異例の事態だ。その大原氏を後継者に指名した創業者の安田隆夫氏は退任直前、2015年の「週刊ダイヤモンド」の中で後進に対して“手紙”を送っていた。「道半ばの私の夢の襷は、君に託した」――。ドンキ創業者が後継直前に送った「ラストメッセージ」を再掲載する。(ダイヤモンド編集部 大矢博之)
「大原、君は1号店の社員で
いわば私の戦友だ」
――突然の引退表明でした。
多くの経営者は組織の中で頭角を現して社長になりますが、私は29歳の創業時から今日までずっと経営者でした。ようやくつかんだ地位ではないんですね(笑)。では、この規模の会社になったときに私はどうすべきか。10年、20年先のドン・キホーテから考えると「ここで身を引くべきだ」という答えしか出ないんです。これ以上、会社に君臨すると会社の成長を阻害すると考えたのです。
――阻害してしまうのですか。
長年トップの座にい続けると、創業者への依存度が高くなり、創業者の顔ばかり見てお客さまの方を向かなくなります。本来、店の良しあしはお客さまが判断するべきところ。お客さまより創業者を優先するようになれば、企業としてマイナスしかありません。
――そうした傾向が出始めていたのですか。
店舗運営は私のことなど気にせず社員自らがやっていましたが、戦略に関する部分は、私の顔色をうかがっている雰囲気を感じていましたね。
リスクを取るような重要な判断をしてきた“場数”は、私が桁違いに多い。たとえ部下に権限委譲をしたとしても、場数が違うので私に聞かざるを得ない。部下にしても、私に聞かないで失敗すると、「なぜ、おまえは聞かないんだ」と怒られかねません。私が引退しない限りそうなります。
――では、なぜ大原孝治社長を後任に選んだのですか。