オキシトシンには薬物やアルコール依存改善の作用も報告されている。肥満の主な原因は過食=「食べることへの依存」と考えられる。オキシトシンの点鼻投与による食欲の抑制はBMI35以上の高度肥満者で顕著な効果が表れる。非肥満者では効果は薄い。これはマウスでも同じことが分かっている。

 しかし、ヒトにオキシトシンを点鼻投与した研究では、体型に関係なくオキシトシンは甘いものの、摂取量を抑制するというデータが出ている。現代人の多くが「砂糖依存」という報告があり、この砂糖依存は血糖値の乱高下を引き起こし、肥満、糖尿病を助長させる。そのような観点からもオキシトシンは優れた「抗肥満薬」と考えられる。

 前島チームの最新の研究では、注射や鼻からの投与が一般的であるオキシトシンを経口投与する新しい方法を、世界で初めて考案した。内服にある工夫を加えると、オキシトシンの血中濃度が上昇し、マウスの食欲が抑制されたのだ。「オキシトシン飲み薬」に秘められた大いなるダイエット効果の発見。ヒト臨床のハードルを乗り越え、「夢の肥満薬の開発」への期待が高まっている。

オーガズムでオキシトシン濃度上昇
たった9個のアミノ酸が織りなす生命の奇跡

 オキシトシンは多くの研究から「心と体の健康に良い効果」をもたらすことが明らかになっている。

 しかし、世間で曲解されているような「性行動」にはほとんど関係ない。性交におけるオーガズムにより血中オキシトシン濃度が上昇することは確認できているが、これは「つがい」として絆を深める役目を担っているのではないだろうか?

 実はオキシトシンは動物において「一夫一婦制」の形成に大きな役割を担っている。人間含め哺乳類の9%の種が社会的一夫一婦制の形態をとっている。安定的なペアの形成が死亡率の低下も含め、免疫力、心血管系などへの良い影響を与える生物学的意義がある。パートナーのいる男性にオキシトシンを点鼻投与するとパートナー以外の魅力的な女性に対して距離(social distance)を多く取るようになるという興味深い研究がある。

 またfMRIを使った研究で、男性においてオキシトシンは報酬を司る脳部位を刺激することで自分のパートナーに対する魅力と報酬的価値を高め、「ロマンチックな絆」を深めるという。女性でも男性のパートナーに対し、同様の報告がある。