会員数100万人超の「スタディサプリ」で絶大な人気を誇り、「対比」の方法論で、難解な問題をクリアに読み解く講義が、知的な興奮を呼び起こし大好評の小柴大輔氏。話題の書籍『対比思考──最もシンプルで万能な頭の使い方』の著者でもある同氏が、どんな本でもスラスラ読めて、スッキリ理解できる「対比思考の読書法」を解説します。
あらゆる文章は“対比”でできている
あらゆる文章は「対比」で書かれていると言っても過言ではありません。文章の中にある対比構造を意識できれば、理解力や読解力の飛躍的な向上につながります。
・「以前は〇〇と言われていましたが、最新の研究では××ということがわかってきました。」
・「コロナ対策について、経済学者は〇〇と主張しているが、疫学の専門家は××と唱えている。」
このように、対比には論点を明確にする働きがあります。特に、文章の中で最も多いパターンは「筆者の考え」vs「世間一般の考え」という対比です。
「一般的には〇〇と言われています、私は××と考えます」という構造です。
「筆者の考え」のみを注目するのではなく、両者の違いに目を向けることで、たとえ難しい文章であっても、「筆者の考え」がくっきりと浮かび上がってくるのです。
新1万円札 渋沢栄一『論語と算盤』を“対比思考”で読む
「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一(1840~1931)の「道徳と経済の合一」思想を説く書物が、『論語と算盤(そろばん)』です。もともとは1916年(大正5年)に書かれたものですが、2024年度から“一万円札の顔”となるにあたり、近年、再評価されている書籍です。
内容を一言で表現すれば、「論語(=道徳)」偏重だったこれまでの日本から、「論語」と「算盤(=経済・資本主義)」の調和へ、日本社会転換の訴えです。
それまで武士が重んじていた「道徳の価値観」とは対極にある「経済の価値観」を持ち出し、さらに2つの対極的な思想を調和させた点が画期的だったというわけです。
この本の中では「道徳と利潤追求の調和」「商売こそ道徳が必要」という言葉が出てきます。ここには、旧来の儒教的な道徳(江戸時代において儒教は武士階級の道徳でしたね)の単なる温存ではなく、資本主義にふさわしい『論語』の刷新、読み直しを見て取れます。
読書に苦手意識がある方は、対比となる言葉に注目するだけでも、読解力が大きく向上しますので、ぜひ意識的に読み方を変えてみませんか。