社長就任時に、私が掲げたのは「名実ともに世界ナンバーワン企業になる事業基盤をつくり上げる」ということ。在任中には、リーマンショックや東日本大震災など想定外の苦難に遭遇し、上場以来初の赤字転落の危機も経験しましたが、全従業員の協力のもと数々の改革を断行。「名実ともに世界ナンバーワン」となるための基本条件であった、当初からの定量目標「ROA(総資産利益率)6%」を達成することができました。

 この間、私は実にさまざまな組織のリーダーを務めてきました。

 ひとり海外事務所長、部下10人前後の課長、部下数十人の部長を経て、タイ現地法人CEO時代は数千人、ヨーロッパ現地法人CEO時代は1万数千人、本社社長就任後は約14万人の部下をまとめてきました。アジア、中近東、ヨーロッパなど人種もさまざまなら、仏教、ヒンズー教、イスラム教、キリスト教など宗教もさまざま。まさに多様性の坩堝(るつぼ)で揉まれてきたのです。

 しかし、どんな組織であっても、リーダーとしての基本は1ミリも変わりませんでした。入社2年目のときに、タイ人従業員に教えてもらったこと、すなわち、誰もが共感する理想を掲げ、メンバーの主体性を徹底的に尊重することに尽きるのです。そのために、メンバーの気持ちを繊細に感じ取りながら、丁寧なコミュニケーションを重ねる。これが、すべての基本なのです。

 いや、組織が大きくなるほど、構成メンバーの多様性が高まるほど、この基本を外れると組織は機能不全に陥ります。小さな組織であれば、メンバーに無理やり言うことを聞かせることも可能かもしれませんが、組織が大きくなるとそうはいきません。また、国や地域によって歴史、文化、商習慣は異なりますから、その事情を勘案(かんあん)せず一方的に目標を課しても反発を食らうだけ。単に豪胆なだけでは、とてもリーダーは務まらないのです。

「小心者」でなければ
生き残れない

 それだけではありません。

 現代のような変化の激しい時代には、「繊細」で「小心」なリーダーこそが力を発揮します。

 いちはやくグローバル競争に突入したタイヤ業界がまさにそうでしたが、広い世界ではいつ何が起こるかわからないからです。突然、新興国の企業が安価な商品を投入してくるかもしれませんし、巨大企業がM&Aでシェアを一気に高めるかもしれない。臆病な目で世界の動向を見つめ、あらゆるリスクに備える小心さがなければ、アッという間に足をすくわれてしまうのです。

 また、世界の変化を真っ先に感じ取っているのは、現場の最前線で働いているメンバーです。彼らが感じ取っている微細(びさい)な変化が、いかにスムースに経営層まで届くか。そして、経営と現場で意思疎通を図り、いかに最適な対応策をスピーディに打ち出すことができるかが、勝負を分けるのです。

 社長室にふんぞり返って、幹部の心地よい報告だけを聞き、人事権を振りかざして組織を動かしていると勘違いしている、鈍感なリーダーでは話にならないということです。