高付加価値・多作化を支える役割分担の基盤に
JA幕別町のドローンによる農薬散布実証事業は、ICTを駆使して作業の効率化や省人化を図るという目標を超えた深い課題に対する取り組みの入り口にもなっている。
JA幕別町営農振興課の葛西隆美・人手不足対策係長は、「農業者(耕作者)が手作業で行わなければならない作業を農協が受託し、農業者はより多品種の栽培に挑むことで農業経営を安定させる。人手不足を乗り越えてなお経営の拡大を目指せる構造を創る試みです」と語る。
秋まき小麦への農薬散布時期である11月上~中旬は、実は長芋の収穫時期と重なっている。長芋の収穫はどうしても手仕事になり、それだけ人手がいる。だからこそラジコンヘリでの農薬散布を外部業者に委託していたのだが、ドローンによる省人化・効率化された作業を農協が担えれば農業者は適正な料金で外注でき、収穫作業に専念できる。つまりウィンウィンの体制を創れるのだ。
そもそもJA幕別町において約270戸の組合員のうち畑作を主とする農業者は、小麦・ビート・豆類・馬鈴薯の4品を栽培している。この中で豆類や馬鈴薯の植え付けと収穫では特に人手を要する。さらに農作物の自由化に対応するために4品を基本としつつ長芋や大根、人参、レタスといった根物、葉物野菜の拡充を進めてきた。
「私ども人手不足対策係では、外国人技能実習生など農作業の現場で直接の戦力となる人材の確保だけでなく、今回のドローン活用の農協の作業受託という2つの側面から労働力不足に対応しています。組合員の経営安定には互いの役割分担や分業化という流れは必然であると考えています」(葛西係長)
ドローンによる農薬散布実証事業では、4人の農協職員が操縦免許を取得して習熟を図ると同時に、地元の帯広農業高校と帯広工業高校の生徒たちを対象とした見学会や免許取得講習会などを開催した。帯広農業高校にはすでにドローン免許を持っている生徒もいるが、ドローンは機種別に免許が必要で、今回の実証事業で使われたドローンメーカーの免許を10人が追加取得した。
下山部長は、「農薬散布の最適時期でも雨が降ったならば畑が泥地になり人手では散布ができませんが、ドローンならそのような機会ロスもありません。そんな基本的な有効性の確認も含め、高校生たちが目を輝かせて新しい技術に挑んでくれ、『こんな使い方はできないか』などと意見交流できたことがとても印象的でうれしいことでした」と語る。