スマート農業の可能性(第3回):労働力不足だけでなく、次なる経営改革への糸口にする

CASE 2 JAならけん「柿のAI自動選果システム」。
先進の選果場がもう一つ先を考える

スマート農業の可能性(第3回):労働力不足だけでなく、次なる経営改革への糸口にする

 一方、2020年12月上旬、奈良県の吉野川に隣接する五條市では、富有柿の収穫と出荷の最終盤を迎えていた。9月上旬の中谷早生(なかたにわせ)から始まった露地物の柿の収穫は、刀根早生(とねわせ)、平核無(ひらたねなし)、早生富有(わせふゆう)、富有と続く。柿の出荷量で奈良県は、和歌山県に次ぐ全国第2位だが、市町村単位では五條市の出荷量は年間2万3800トンで、2位の和歌山県かつらぎ町の1万5200トンを大きく上回る断トツ日本一の産地だ(五條市は15年、かつらぎ町は14年実績)。

スマート農業の可能性(第3回):労働力不足だけでなく、次なる経営改革への糸口にする

 五條市の郊外、西吉野町の山中にあるJAならけん西吉野柿選果場では、農業者によって持ち込まれた柿を4台(系列)の自動選果機に流すと、選果機に備えられている画像計測器によって撮影された映像を基に色や大きさキズなどがルールベースで推定され、それにより等階級が決定され、さらに自動的に等級別に区分けされる。

 この選果場は1999年に、収穫量の増加を受けて周辺地域にあった4つの選果場が統合されて「東洋一の選果場」として稼働を始めた。16年には設備の近代化更新(産地パワーアップ事業)が施され、現在の最新設備が導入された。

スマート農業の可能性(第3回):労働力不足だけでなく、次なる経営改革への糸口にする

 選果場は年間1万5000トンの処理能力があり、数量が多い刀根早生のピーク時には1日200トン(20キログラムコンテナで1万杯)を選果する。ちなみに自動選果システムは、コンテナに農業者別のバーコードが付いており、それを基に等階級別個数などが把握でき、収支システムとも連携しているという先進的なものだ。

 しかし、それでもなお人手不足は深刻になっている。自身も柿の栽培農家でJAならけん西吉野柿部会長兼西吉野柿選果場委員長の北田哲也氏は、「刀根早生の時期には朝8時から夜10時まで延べ140人が作業にあたり、富有柿のシーズンになると選果に加えて冷蔵柿の梱包という別の作業が加わるので170人体制になります」と言う。

 実は等階級判定と区分けは自動化されているが、選果機に柿を流す手前に人手がかかっている。現在の選果システムは、上面と左右4面の「5画面計測」で画像判定するが、そのために選果機にはへたを下面にして流してやらなければならないのだ。しかし柿の虫食いや傷みは、果実の果頂部(上面)だけでなくヘタ部分にも多く発生する。

スマート農業の可能性(第3回):労働力不足だけでなく、次なる経営改革への糸口にする西吉野柿選果場の作業風景。選果機の1台(列)に6人の作業員が張り付いている

 そこで選果機の1台ごとに左右6人ずつ(4台で合計48人)が並び、「底を確認し、へたを下に向ける」という作業が必要だ。自動選果システムはあるが、その前に1つ、人の判断が添えられているのである。

 北田委員長は、「作業員の平均年齢は65~67歳ぐらいで、最高齢者は80歳代。柿を選別できても動作が追い付いていかない。毎年、若い季節従業員40人ほどに手伝ってもらいベテランの技を若い人に受け継ぐ試みを続けていますが、それも世の中の人手不足の深刻化で限界が見えてきました」と語る。

 そこで農林水産省の「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」に応募して実用精度の向上に取り組んでいるのが「センシング技術に基づく自動選果による大規模柿産地の選果作業省人化」だ。

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