日本人が英語ができないのは当たり前

本郷 たとえば「子どもにはいい暮らしをしてほしい」と思っても、その「いい暮らし」は地位が必要なのか、お金が必要なのかで違います。

 地位が欲しいなら官僚ですけど、お金が欲しかったら官僚になっちゃダメ。日本は、お金と地位を別々にするのが大原則で、江戸時代からそうなんです

 譜代大名は、お金は持たせてもらえないけれど政治には関われます。逆に、外様大名は豊かな領地はもらっているけれど、政治には一切関われない。これは日本人の知恵なんです。

加藤 いまの若い子たちは、お金がなくても上手に暮らしていける工夫を知っていますよね。仲間とシェアハウスに住んで、田舎でもリモートワークで最先端のことをやって、居酒屋に行かずに家飲み、というような。

本郷 賢くなっていますよね。ただし、旧来の学力で比較してみると、明らかにバカになっています。だからと言って「バカになっている!」とことさらに騒ぐのもおかしい。時代、環境によって必要な学問、賢さは違うのですから。

 たとえば、自国でちゃんとした大学院の教育を受けられず、アメリカに行かない限り自国では偉くなれないという国に住んでいる人は、英語を必死に勉強します。一方、日本ではそのために必ずしも外国に出る必要はないから、そこまで英語に必死になることもない。

 だから、アジアの中で日本人は英語ができないからといって、それはバカだということにはならないわけです。学問ってそういう面があるんです。

>>対談次回に続く

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加藤紀子(かとう・のりこ)
1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、国際バカロレア、教育分野を中心に「NewsPicks」「プレジデントFamily」「ReseMom(リセマム)」「ダイヤモンド・オンライン」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。膨大な資料と取材から「いま一番子どものためになること」をまとめた『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』が16万部を超える大きな話題となっている。

本郷和人(ほんごう・かずと)
東京都出身。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。大河ドラマ『平清盛』など、ドラマ、アニメ、漫画の時代考証にも携わっている。おもな著書に『新・中世王権論』『日本史のツボ』(ともに文藝春秋)、『戦いの日本史』(KADOKAWA)、『戦国武将の明暗』(新潮社)など。監修を務めた『東大教授が教えるやばい日本史』は子どもから大人まで大きな人気となり、37万部突破のベストセラーとなっている。