明治の「食い逃げ知事」騒動、令和の選挙に通じる“情報戦”に背筋が凍る〈ばけばけ第89回〉『ばけばけ』第89回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第89回(2026年2月5日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

江藤知事が食い逃げ?

 第89回のキラーワードは「食い逃げ知事」。

 松野家の朝、玄関が「気味が悪い」ほどきれいだった理由は、江藤知事(佐野史郎)が食い逃げしたという新聞記事が出て、市民が一斉に県知事の家に押しかけていたのだ。

 トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)がそろりそろりと玄関アプローチ(この時代こういう用語はたぶんない)に出てみると、外に様子を見にいっていた司之介(岡部たかし)が血相を変えて戻ってきた。知事の家がものすごいことになっていると。

 食い逃げって県知事、なんてことを……。

 錦織が県知事の元に行くと、誤報だった。

 そんなことするわけないと心外な顔をしている江藤。

 代金を秘書が払い忘れただけだった。秘書に代金を渡して支払いを頼み、先に店を出たら、その支払いが忘れられていた。

 こんなたわいないうっかりミスを知事の政敵が耳にして、梶谷(岩崎う大)に記事を書かせた。

 政治は情報戦。ちょっとでも弱みを見せたらつけ込まれ、このように「食い逃げ知事」というレッテルを貼られる。背中を見せたら斬られる厳しい世界だ。

 ちょうど現実社会では、選挙を目前に控え、政治家の一挙一動がいつにも増して注目されている。うっかりしたことが言えない、できないから神経を使うだろう。

「食い逃げ知事など誰も言っちょらん」
「言っちょります」

「食い逃げ知事」は梶谷の盛った言葉かと思ったら、実際、民衆が口にしていた。でもすばらしくキャッチーなネーミング。それによって市民もますますヒートアップしてしまったのだろう。

「食い逃げ知事」に「ラシャメンおトキ」とどちらもキャッチーだから、祭り化してしまう。