まるでロールプレイングゲームの「ダンジョン」を攻略するように水際作戦を攻略しなければ、生活保護を申請することもできない。タテマエとしては、自治体にも福祉事務所にも各職員にも、申請する権利を侵害することはできない。しかし多くの自治体において、水際作戦は事実として存在し続けてきた。厚労省は各福祉事務所に対して「申請する権利の侵害と取られる行為を慎むように」と繰り返し通知し続けているのだが、生活保護の利用抑制と取れる指示を多様な形で続けてきたのも厚労省である。このため、「水際作戦」が消滅する気配はない。

ネットカフェ難民が
コロナ禍で受けた水際作戦

 さらに、コロナ禍の影響もある。

「今、福祉事務所のカウンターに行くと、職員はカウンターの上のビニールカーテンの向ここうにいるわけですが、当事者と支援者は狭い空間に一緒にいることになります。それは、新型コロナの感染リスクを高めることになります」(稲葉さん)

 東京23区の中では、中野区など1時間程度で「相談」が終わるところもあったが、他区では3~4時間に及ぶことが多かったという。

 福祉事務所の環境が新型コロナの感染リスクを高めているところに、水際作戦が重なる。

「4月、東京23区では生活保護の申請が前年度に比べて約40%増加したのですが、その時期は水際作戦が多かったです。支援者が同行せず、本人が1人で申請に行くと、どうしても水際作戦に遭う感じでした」(稲葉さん)

 特に、ネットカフェが多い新宿区では、4月の緊急事態宣言でネットカフェが閉鎖され、比較的若い人々が多数、寝泊まりの場を失った。生活保護を適用する責任のある自治体は、「その人の居住地(住民票がある)」「その人が今いる場所」のいずれかである。その日の朝まで新宿区のネットカフェにいた人が、新宿区で生活保護を申請するのは自然の成り行きだ。

 しかし福祉事務所の人員配置は、ネットカフェ難民が一斉に住居喪失する事態を想定していない。稲葉さんは、新宿区の福祉事務所職員に、電話で「みんな受け付けていると、私たちがパンクします」と言われた経験を持つ。