「テレビに出ずに全国を回って人と話してきたのでそれを本にしました」。ウーマンラッシュアワー村本大輔が一冊の本を12月16日に刊行した。彼がさまざまな地で見て、感じた“痛み”をつづった『おれは無関心なあなたを傷つけたい』というタイトルの本だ。村本大輔は現場で何を見て、どう感じたのか? 本連載では、本書の内容を期間限定で公開していく。今回は、“在日コリアン”について触れた「手作りキンパに想うこと」という項目の後編を公開。
初めて食べた手づくりの「キンパ」
※前編はこちらからご覧いただけます
朝鮮学校に向かう途中、いろんな話を聞いた。チマチョゴリを着て街を歩くと罵声を浴びせる人たちがいて危険なので、生徒たちは学校まで私服で来てからチマチョゴリに着替えるらしい。
それを聞いて、日本の18歳以下の野球の代表チームが韓国に行くとき、空港で日の丸のないシャツを着せられて入国したという話を思い出した。それに対して彼らはバッシングを浴びていたけど、一番日の丸を付けたかったのは選手たちだろう。いつでも大人たちの幼稚な喧嘩に巻き込まれるのは彼ら子どもらだ。
お母さんたちは手作りのキンパという韓国の巻き寿司をお弁当に持ってきてくれた。だいたいこんなときは店で買ったお弁当でも用意してくれるんだけど、人の手作りが食べられない派の僕は最初、まじか……と思ったけど食べてみたらめっちゃおいしかった。
そして、朝鮮学校に着いた。お母さんたちに「子どもたちにはサプライズなのでバレないように楽屋まで行きます」と言われた。これが芸人にとって一番つらい。笑 おれが毎日テレビに出ている芸人ならまだしも、ここ何年もテレビに出ていないやつのサプライズは、こけたときの恥ずかしさはすべて僕にのしかかる。
楽屋に向かう途中、風邪で早退する生徒とすれ違った。お母さんたちはおれを必死で隠そうとしたけど、彼に見つかってしまった。彼は素でペコっと会釈だけして帰っていった。
「お母さん! 見ましたか!! あのリアクション! 絶対、サプライズ変な空気になりますって!」とビビりまくったが、お母さんたちは絶対に大丈夫です、と謎の自信で僕を舞台に送り込んだ。
僕が朝鮮学校の生徒たちに伝えたかったこと
体育館に集められた子どもたちは、僕を見てすごい歓声をあげた。あとで聞いたらテレビの漫才で朝鮮学校無償化にふれたことで、生徒たちの間でもすごく話題になっていたらしい。
中学生、高校生たちがキラキラした目で僕を見ていた。僕は怖くなった。なぜなら、このまだ幼い彼らに、これからショッキングな話をしないといけないからだ。勇気が揺らいだ。葛藤した。
知らなくていいことを言って傷つける必要はあるんだろうか。もしかしたら、それはあくまでも僕が見てきた人たちであって、彼らは素晴らしい日本人に出会うかもしれない。わざわざそんな先入観になるようなことを言わなくてもいいのでは、と。でも、ただお笑いをやるならおれじゃなくてもいい。おれは彼らに知ってほしい、この国の現実を。
途中、何度も話が止まった。静まり返っては笑いをとり、笑いをとって小休憩したらまた突きつける。その中で僕は言った。
ルーツがあることは素晴らしいことだ。ルーツに迷い、困惑し自分が何者かを悩むことは素晴らしいことだと。アメリカのコメディアンは自分のルーツを学び、発言する。黒人白人メキシコ人などなど、なぜここにいるのか、自分は何者か、と。そこから気づきがたくさんある。
たとえば黒人なら、アメリカという国に奴隷として連れてこられた。まだまだ白人との格差も目立つ。彼らはそのルーツから学び、人としての尊厳を主張する。ジャズもヒップホップも、表現は彼らの権利の主張だ。だから僕は、朝鮮学校の彼らにもルーツに真摯に向き合い、そして権利を勝ち取ってほしかった。
なぜここに来たのか、独演会をしながら頭の中で何回も僕は僕に聞いた。
僕は味方だよ、と言いたかった。
僕はよく、どうして日本人なのに朝鮮学校にそこまで関心を持ってくれるんですか?と言われる。僕は高校も中退していて、たまたま芸人として生活ができている。もし笑いがなかったら、おれの人生はなかった。可愛い女の子とデートできるのも、高い家賃のマンションに住めるのも、笑いで自分が幸せになる権利を勝ち取ってきたからだと自信を持っている。
だから彼らにも、打ちのめされることや、無力で涙を流すことを、すべて未来への大事な経験にして幸せを勝ち取ってほしい。怒りに取り憑かれて恋することや友達との時間を忘れないでほしい。彼らのように、いろんな景色を見てきた人たちは格段に強く優しくなれる。
それを伝えたかった。
手作りキンパに想うこと
独演会後に、生徒たちが教室のベランダに集合して手を振ってくれた。難しい話、ショックな話をしたけど、最後までいい顔で聞いてくれた。伝わってほしいことを心で感じてくれた。
そして僕が、今回の朝鮮学校訪問で一番素敵だと思ったのは、翌日、50枚近い写真が彼らのお母さんから送られてきたことだ。その写真はほぼすべて僕ではなく、子どもたちの笑顔だった。つながりの薄くなってきているこの時代に、強いつながりと結びつきを見た。
社会がすごく緊張状態にあるから、そこから自分たちを守るために強く一体化する。彼らをルーツだけで批判する人たちに言いたい。
あなたには、彼らのようにあなたの笑顔を見たい一心で必死に行動し、あなたの笑顔を守るために走り回り、あなたの笑顔を自分の幸せのように写真に撮ってくれるような人がいますか、と。
僕はお母さんたちの手作りのキンパから、すごく温かいものを感じさせてもらった。
(本原稿は、村本大輔著『おれは無関心なあなたを傷つけたい』からの抜粋です)