ブランド力と技術で
信用を担保したApple Card

 アメリカはクレジットカード大国だと思われている。確かにデビットカードなども含めた利用率(決済比率)は日本の倍近くあるが、実のところカードの保有率では75.5%と、日本よりも10ポイント弱低い(Federal Reserve Bank of Atlantaによる2019年のデータ)。

 利用率の高さは、偽札が多く出回り現金を信用できないという事情が関係し、保有率の低さは、移民や貧困層がクレジットカードを作れないことやカード犯罪が多いことに起因している。

 アップルが自社のクレジットカードであるApple Cardを作った目的は、それにひも付けられるApple Payの普及を加速し、自社の金融ビジネスを拡大するためだ。しかしそれだけではない。Apple Card自体にこれまでにないレベルのセキュリティの高さを実現することで、クレジットカードに対する不安を払拭し、信用を高めるという目的もあるのだ。

 Apple Cardは、自分のiPhoneやiPadを使って「Wallet」アプリ経由で申し込む。基本的には「デジタルカード」であるため、盗難やスキミングの被害に遭うことはない。

 チタン製の物理カードも存在するが、刻印されているのはアップルのロゴと利用者名のみ。カード番号や有効期限、CVC(セキュリティコード)、サイン欄などは存在しない。必要な情報はすべて、内部のICチップに保持されているため、ハッキングされない限りは情報が漏れることはないのだ。このICチップによって、物理カードもApple Payと同様に、カード番号を取引相手に開示せずに決済処理することができる。

 また、アップルと協業してイシュア(カード発行元)となった米ゴールドマン・サックスにも、データを外部に出さないことを約束させており、個人情報保護の観点からも、最も安心して使えるカードとなっている。

 はたからから見ると、非常に回りくどい処理を、複雑な仕組みで行っているのだが、現金やクレジットカード決済をめぐる不安や、キャッシュレス決済への懸念を払拭しようとするAppleにとって、目的を達成するためには従来にないシステムの構築は当然のことだったといえよう。

 なお、アメリカでの話だが、Apple Cardではアップルの製品やサービスの購入・購読で3%、Apple Payでの買い物で2%、物理カードでの買い物も1%のキャッシュバックを受けられることも、大きな特徴だ。

Apple Card上陸はいつか?
鍵を握るゴールドマン・サックス

 このようにセキュリティとプライバシー保護に優れたApple Cardだが、アップルだけの力では乗り越えられない金融系の法律や制度の壁が存在する。一つの希望は、アメリカでのイシュアであるゴールドマン・サックスが、自社ビジネスの国際展開に意欲を示している点だ。

 ゴールドマン・サックスは、もともと、富裕層中心の資産運用サービスや融資サービスを手掛けてきた投資銀行だった。ところがApple Cardの発行によって、同行がビジネス拡大のために2016年からスタートさせたオンライン融資サービス「Marcus」(創業者の名前を冠した小口融資)が大きく進展した実績がある。Apple Cardは、ゴールドマン・サックスをして「史上で最も成功したクレジットカード・ローンチである」といわしめたほどの成功事業なのだ。

 そのゴールドマン・サックスの日本法人が、2019年5月に金融庁に対して銀行業免許の申請手続きに着手した。

 実際には、今年9月に金融庁が公開した銀行免許一覧(認可済み社名リスト)にもまだその名は載っていないのだが、同日本法人の社長は、日本版Marcusの展開に意欲を示しており、社内的には日本での一般向け銀行サービス開始に向けて着々と準備が進められているものと思われる。となれば、その中には当然Apple Cardも含まれていると考えるのが自然だ。

 ゴールドマン・サックスに対する銀行免許の認可次第だが、たとえば、イオン銀行では、準備から営業許可が下りるまでの期間が1年5カ月だったことを鑑みれば、2021年には認可される可能性がある。

 Apple Cardが、セキュリティとプライバシーに関する新たな概念を、日本のクレジットカード業界にもたらすことに期待したい。

(テクノロジーライター 大谷和利)