ジャック・マー氏が学長を務める大学分校の設立計画が中止されたという報道が海外であった。中国のメディアは一斉に「デマ」だとしているが、その確証もない。今回の騒動には、中国政府の重要なシグナルが隠されているという。(ジャーナリスト 姫田小夏)
デマか、中国当局によって消された真実なのか
シンガポールの主要日刊紙「聯合早報」は2020年12月16日、「ジャック・マー氏を学長とする湖畔大学の雲南分校の設立プロジェクトが、当局により中止に追い込まれた」と伝えた。プロジェクトの中止を伝えたのはいくつかの海外メディアだけだったが、直後、中国の電子メディアは一斉に、これは「デマ」だとして報道を打ち消した。
しかし、火のない所に煙は立たない。ましてや、一斉に報道をもみ消すこの行為も不自然だ。「プロジェクト停止はデマだ」と掲げる中文記事をクリックしたが、事実を取材する記事は見つからず、記者たちも沈黙を決め込んでいることがうかがえる。中国では「当局によって消された情報こそが真実だ」というケースは多く、今回もこの事例に当てはまる可能性がある。
上海で民営企業を経営するSさんも同じ見方をしていた。アリババ集団傘下の金融会社であるアント・グループの上場延期以来、Sさんはマー氏の身辺の変化を追っていた。そのマー氏が学長を務めるという大学分校の設立計画の中止は、仮にデマだったとしても彼を驚かせるに十分なニュースだった。Sさんはこう語る。
「私はこの中止報道も、中国政府による“重要なシグナル”だと受け止めています」
ちなみに湖畔大学は、2015年にマー氏により浙江省杭州市に設立された、国家教育部の管轄外の大学である。3年以上の起業歴と3000万元(約4.8億円)以上の年収などの条件を満たした者だけが入学できる企業家養成スクールであり、「人材を発掘し、トレーニングを与えること」を使命としているという。