コロナ禍では、自宅学習の重要性がますます高まり、児童書・学習参考書の売り上げが急増した。
なかでも異例に売れ続けているのが、『東大教授がおしえる やばい日本史』だ。マンガやイラストを多用して、勉強が苦手な子どもでも「楽しみながら学べる」と話題になり、シリーズの『やばい世界史』とあわせて50万部を突破。発刊から2年をへてなお、重版のペースが落ちないロングセラーとなっている。
今回、『やばい日本史』を監修した歴史学者の本郷和人氏(東京大学史料編纂所教授)に、『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』を刊行した加藤紀子氏が、教育や子育てについて話を聞いた。東大教授が語る勉強の極意とは?(構成:小川晶子、写真:山口真由子)。
※対談前回「東大教授が『日本の教育はロクなもんじゃなかった』と語る理由」はコチラ。
桶狭間の戦いから「少数精鋭は最高」と学ぶのは「愚者」の考え
加藤紀子(以下、加藤) 『やばい日本史』を読むと、歴史って面白いなぁと思いますし、この本をきっかけに歴史をもっと学びたいと思う子どもたちも多いと思います。歴史を学ぶ意味について、本郷先生のお考えを聞かせていただけますか。
本郷(以下、本郷) ビスマルクの言葉で「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」というのがあります。
たとえば桶狭間の戦いで言われているのは、織田信長軍3000人が今川義元軍2万5000人を討ち破ったということです。ここから「人数が少ない側も、知恵を絞れば勝てる」という教訓を引き出す人もいますが、それは歴史の考え方ではありません。自分の経験や考えを、歴史上の出来事に当てはめているだけです。
歴史として客観化して見るのなら、これはまぐれだと考えなきゃいけない。ほかならぬ信長自身も、まぐれだとわかっていました。だから、次からはちゃんと敵より多い軍隊を用意し、優勢な武器を用意して、勝つべくして勝っているのです。
それを勝手に、「人数が少ない側も、知恵を絞れば勝てる」なんて言いだしたらどうなるか。太平洋戦争の日本軍を見てください。生産力の差が10倍くらい違うのに、勝てるわけがない。
加藤 なるほど、表面的なエピソードだけを見ても、歴史に学ぶことにはならないんですね。
本郷 そうです。僕は歴史の授業は、たんに表面をなぞるのではなく、たとえば1年間明治維新だけをやるとか、深く堀り下げるかたちで学ぶほうがいいと思っています。そうしないと、歴史ってわからないと思う。
その時代に人は社会とどう関わっていたのか、どう暮らしていたのか、男はどうか、女はどうか。いろいろなことを考えて「今日はこれについてみんなで語り合おう」って言って進めたらいいと思うんです。今のように浅く広くやったところで、歴史の学び方はなかなかわからないでしょう。
今のままなら「歴史」は受験科目からはずすべき!?
加藤 国際バカロレアの認定校に娘さんを通わせた日本人の方からお話を伺ったところによると、本郷先生がおっしゃるように、一つのことを深堀りする授業をやっているのだそうです。明治維新なら明治維新で、めちゃくちゃ詳しくなるけれど他は全然知らないと。
お母さんは日本の教育を受けてきたから、「これでいいのだろうか?」って悶々とされたそうです。私自身も、受験のことを考えるとどうしてもモヤモヤしちゃう部分があります。でも、受験がなければ、一つのことを深堀りしたほうが絶対楽しいですよね。
本郷 受験って罪深いな(笑)。学ぶ楽しさを知ることができれば、子どもも親が心配しなくても勉強しますよ。絶対そっちのほうがいいと思うんだけどね。
今は歴史のテストがクイズみたいなものになってしまっているので、それならばむしろ受験の科目から歴史は外したらいいと思っているほどです。受験があるから、「歴史は暗記物」ってことになってしまっているわけで。
でも僕は歴史の面白さを伝えたいし、好きになってほしい。だから『やばい日本史』のような本を出しているんです。
加藤 『やばい日本史』の中で、とくに読んでもらいたいところはどこですか?
本郷 全部です(笑)。人間、オモテもあればウラもあるという、そこを読み取ってもらったら嬉しいですね。
(対談次回「東大教授が教える『日本史上最もやばい人物』ベスト3」に続く)
東京都出身。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。大河ドラマ『平清盛』など、ドラマ、アニメ、漫画の時代考証にも携わっている。おもな著書に『新・中世王権論』『日本史のツボ』(ともに文藝春秋)、『戦いの日本史』(KADOKAWA)、『戦国武将の明暗』(新潮社)など。監修を務めた『東大教授がおしえる やばい日本史』は子どもから大人まで大きな人気となり、37万部突破のベストセラーとなっている。
加藤紀子(かとう・のりこ)
1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、国際バカロレア、教育分野を中心に「NewsPicks」「プレジデントFamily」「ReseMom(リセマム)」「ダイヤモンド・オンライン」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。膨大な資料と取材から「いま一番子どものためになること」をまとめた『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』が15万部を超える大きな話題となっている。