日本史の偉人たちを「すごい」と「やばい」の2つの視点から紹介する書籍、『東大教授がおしえる やばい日本史』が話題になっている。発売後、即5万部の重版がかかり、2ヵ月で11万部を突破。Amazonの日本史和書ランキングでも1位に躍り出た。
当初「児童書」として企画された本書。ところが、いまやビジネス街の書店で大人にも買われている。
なぜ、本書は幅広い年齢層の読者を獲得できたのか?
特異な売れ方の理由を執筆者の滝乃みわこさんに聞いた。
(構成:金井弓子)

“日本史本”は、人気。
だけど、何でも売れるわけではない。

じつは、滝乃さんは日本史ジャンルで10年間にわたり、ヒット作を企画・編集・執筆し続けている。何か、読者の心をつかむ「決め手」があるのだろうか。

 書店で意識して棚を見ると、「日本史」に関する本が至る所に置かれていることがわかります。文庫、新書、ビジネス書、専門書、児童書……。こんなに幅広い読者がいるジャンルは、ほかにありません。
 つまり“日本史本”は沢山の人を引き付ける「人気ジャンル」なんですね。

 でも、「人気ジャンル」だからといって、「売れる本」が沢山あるわけではありません。日本史の本は5万部を超えればヒットと言われていますが、その基準に達するのは、年間数冊程度。
 ライバルが多く、読者の目も肥えているので、きちんと「ツボ」を押さえた本でなければいけないのです。

おじさんが作った「歴女向けの本」ほど
つまらないものはない

今回『東大教授がおしえる やばい日本史』で多くの読者を獲得できているのも、「ツボ」を外さなかったから。それは10年間、日本史本を作り続けてきたからこそ、わかるものなのかもしれない。
2009年に発売された『乙女の日本史』(KADOKAWA)は、滝乃さんが初めて著者として企画した日本史本。「女性目線の日本史」というコンセプトがウケて、シリーズ累計25万部に達した。

 企画のきっかけはシンプルに「女性が読みたい歴史入門の本がない!」と思ったから。
 当時は、ゲーム『戦国無双』『戦国BASARA』『薄桜鬼』の人気が本格化したころで、ゲームのキャラがきっかけで、女性の日本史ファンが急増していました。自分が好きなキャラの史実が知りたい、ゆかりの地に行きたい女性が歴史イベントを主催したり、史跡巡りをするようになり、マスコミに注目されました。

 いわゆる「歴女ブーム」ですね。私もドラマやマンガがきっかけで歴史を好きになったので、気持ちがよくわかります。このブームに乗って、歴女向けの日本史本も出版されました。

 ところが驚いたことに、歴女の「ツボ」にハマる本が全然ない。なぜなら、「歴女アイドルの旅写真+歴史語り本」とか、「武将をイケメン化したイラスト+歴史コラム本」とか、女性向けを謳いながら「歴女ってこういうのが好きなんでしょ?」という勘違いで企画が作られていたからです。

 歴史が好きになり始めの女性は、ミーハーですが探求心があります。彼女たちが好きなのはあくまでも自分の好きな人物(もしくはキャラ)であって、それっぽいビジュアルの別人ではない。知りたいのは、自分が好きな歴史人物が生きていた時代はどんな文化だったのか、結婚制度は、恋愛は、主従関係は、死生観はどうだったのかということ。それを「女性目線」で描くことが最も重要だと思いました。

男性目線の歴史観に別れを告げた
「さよなら、おじさん史観」

 『乙女の日本史』のキャッチフレーズは「さよなら、おじさん史観」という、ちょっと挑戦的なものです。歴女ブームが起こる前、「歴史はおじさんのもの」というイメージが強く、歴史上の女性についても「政略結婚の道具」または「男性を喜ばせる女神」という描き方をされることが多く、血の通った人間には感じられなかったんです。

 それもひとつの歴史観だとは思いますが、だったら「女性目線」で古代から現代までを通史で描く日本史があってもいいんじゃない?と思ったんです。

 歴史って、時代の流れがわかると断然楽しくなるんですよ。最初は冒頭に時代ごとの概要を文章で入れようかと思ったのですが、それだと読み飛ばされてしまうと思いなおして、2ページにまとめた漫画を入れました。
 本文は読みやすいけど真面目に、歴史のゴシップネタは女性週刊誌をパロディしたページにして、思いっきりライトに。もともと『週刊女性』という週刊誌の編集をしていたので、「もりだくさんでお得感」があったほうが喜ばれるんじゃないかと思ったんです。

なぜ『やばい日本史』は「児童書」なのに「大人」にも売れたのか?
なぜ『やばい日本史』は「児童書」なのに「大人」にも売れたのか?


「歴史」という大きいジャンルに、今までなかった「女性目線」を掛け算した。これが当たったことで、「掛け算」の面白さが重要だと気づいたという。