「実質、工場に住み込みですね」と言うと「そのとおりです」と答える。工場の安定的な生産を維持するためには住み込みも覚悟の上だ。周囲は工場と田畑。買い物も市場で中国語による交渉、という生活である。身重の妻には第一子の誕生も近づいていると言う。もともと不便な上にさまざまなハンデが重なるが、彼らの頭の中にあるのは「引き揚げ」という発想よりも、むしろ「根を張る」ことの方が強い。

 大都会の上海市内では「身の危険」を理由に、駐在員が静かに家族を帰国させる動きもあるようだが、背水の陣で中国に進出してきた日本の中小企業には、前進以外の選択はない。今さら後には引けないのだ。

大連では堂々と街を闊歩
反日気運も地域により温度差

 日本にとって中国は、27兆5441億円と最大の貿易相手国(2011年、財務省)であり、自動車輸出では第4位にランクする重要な輸出先だ。にもかかわらず、対日感情の悪化が日本企業に甚大な影響を与えている。中国のメディアは「中国を敵に回した愚かな日本」がどれだけの損失を被っているかの報道を連日、得意満面に繰り返す。

 確かに、反日デモとその前後に企てられた経済制裁に震え上がった中国の日本企業は少なくない。外務省や大使館・領事館からの注意喚起情報に加え、本社からの「絶対に外に出るな」という指令を受けた在留日本人が、外出を控えて日本語を慎む生活を強いられている様子は、脅しにかかる中国の「思うツボ」にはまったともいえる。

 だが、そんな反日ムードが高まる中国で、堂々と街を闊歩する日本人もいた。

「大連では街を歩いても平気でした。中国語はできないので、ガイドブックを指さし『ここに行きたい』と中国人に尋ねていました」と苦笑するのは、大連に協力工場を持つ中小金型メーカーC社の経営者であるDさんだ。そろそろ白髪の混じるDさんではあるが、たびたび出張でこの地を訪れる。だが、街は「私にとってはいつもと変わらない」と言う。