
こうした事実を指摘しながら、スマホやタブレットが人間の脳に与える影響を論じるのが『スマホ脳』(新潮新書)である。著者のアンデシュ・ハンセン氏はスウェーデン、ストックホルム出身の精神科医。前作『一流の頭脳』(サンマーク出版)が人口1000万人のスウェーデンで60万部の大ベストセラーとなり、世界的人気を得た。
スマホやタブレットの使用が脳に影響するのは、子どもだけではない。スマホをヘビーに使う人の中で「最近物覚えが悪くなった」とか「集中力が落ちた」と感じる人はいないだろうか? ハンセン氏によれば、大人でも子どもでも、スマホへの過度の依存は記憶力や注意力に影響することが科学的に証明されている。そして、それは人類の「進化」にも関係しているのだという。
スマホを使う現代の生活に
人間の脳の進化が追いついていない
ハンセン氏は「人間の脳はこの1万年進化していない」と説く。現代文明が現れるのは、長い長い人類の進化の歴史からすると、ほんの最近だ。地球上に人類が出現してから現在までのうち、99.9%の期間、私たちは狩猟と採集をして暮らしてきた。
要は、スマホを使う現代の生活に、人間の脳の進化が追いついていないのだ。だから、スマホがもたらす刺激に、脳は無意識のうちに狩猟採集民と同じように反応してしまう。
例えば、人が知識を求めるのは、狩猟採集生活の中で生存を確保するのに、周囲の情報を得ようとするからだ。獲物がいそうな場所はどこか、あるいは自分たちを襲う猛獣や敵対する部族が近づいていないか。情報や知識が得られるかどうかが生死に関わる。
そして、人に知識を求めるよう促すのが、脳内物質の「ドーパミン」だ。脳に「新しいこと」がインプットされると、ドーパミンが放出されるのだという。ドーパミンは「報酬物質」と呼ばれ、快楽が得られる行動に私たちを突き動かす働きがある。つまり、人間は狩猟採集民の時代から一貫して、ドーパミンという「報酬」を受け取るために知識や情報を求め続けてきたのである。
スマホの登場で、大量の知識や情報が、画面をタッチするだけで簡単に得られるようになった。すると、狩猟採集民の頃から変わらない私たちの脳は、ドーパミンを求めて、次から次へと画面をタッチして新しい情報や知識を得ようとする。かくして私たちはスマホを触らずにはいられなくなってしまったのだ。