先行きの見えない2021年。これからは「新しいこと」や「人と違ったこと」を考えるスキルが重要になってくる。だが、「考える」といっても、いったい何をどう考えればいいのか?
そんな人に読んでほしいのが、このたび刊行された書籍『考える術──人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』だ。
著者の藤原麻里菜氏は、「無駄づくり」という異色のコンテンツをネットを中心に展開しており、これまでに何百もの作品を発表、その人気は海外にも波及し、台湾での個展では2万5000人もの観客が殺到、SNS再生数は4000万回にも達する話題の発明家だ。
そんな著者が、これまでに発明を何年も継続してきた中でつかんだ「考えるテクニック」をあますところなく詰め込んだのが本書だ。「何も出てこない……」とうんうんとうなっているなら、本書をパッと開いて、好きなワザを使ってみてほしい。「逆転」「主語変え」「マナー破り」「合体」「似たもの合わせ」……便利に使える思考ワザが満載である。
本稿ではこの『考える術──人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』から特別に、一部を抜粋・編集して紹介する。
欲に「流され続ける」人たち
唐突ながら、「7つの大罪」ってすごいものだなと思います。
7つの大罪とは、4世紀にカトリックの修道士が執筆した『修行論』をもとにした教えで、人間を罪に導いてしまう「傲慢」「強欲」「ねたみ」「怒り」「色欲」「貪食」「怠惰」の7つの想念を指します。
いまさらながら急にすごいなと思った理由は、21世紀になっても人類はこの想念に負け続けていることに気づいたからです。どっかのタイミングで打ち克て、人間。
とはいえ、この7つの想念は、マズローの5段階欲求と同じく、アイディアのきっかけになります。
ここでは「傲慢」「強欲」「色欲」「貪食」「怠惰」という5つの欲望に注目してみます。
この5つの欲望を満たせる既存のサービスにはどんなものがあるでしょうか。
・傲慢:自尊心を保ちたい、いばりたい→キャバクラ、ホストクラブ
・強欲:お金やモノが簡単にほしい→ギャンブル
・色欲:性欲を満たしたい→性風俗産業
・貪食:いっぱいご飯を食べたい→ファストフード
・怠惰:やるべきことをしたくない→家電、家事代行サービス
欲望に負けてしまうどころか、人の弱さを突いて金儲けにしてしまっています。罪深すぎるぞ、人間。
これらの欲望は誰にでもありますが、その欲望の充足を求めていることを本人は意識しにくい。
とくに「傲慢」なんかは、もしひそかに抱いていたとしても「ああ、誰かを見下していばりたい」とは素直に思えないはずで、ふとしたときに無意識にいばったり人を説教したり見下したりしてしまうものです。
こうした無意識的な欲望に気づくことからアイディアは生まれます。それも、何千年も克服できていないような強烈な欲望なら、より普遍的なアイディアにつながるはずです。
欲を生かせる人は「欲に気づきまくる」
欲望をアイディアや思考に生かすには、自分が無意識に持っている欲を意識するために、恐れずに「嫌な自分に気づきまくる」という方法をおすすめしたいです。
また、自分自身の素直な欲望をしっかりと言葉にすることも大切です。
わたしは年下と飲んでいるとき、つい上から目線でアドバイスをしてしまうことがあります。
アドバイスしているときはとても気持ちがよく、後輩の「なるほど!」という相槌がさらに自分を高揚させます。数年前は、こんなふうにアドバイスしてくる年上のやつらが嫌で嫌でたまらなかったのに、いまはそっち側になっている。傲慢な自分が嫌いだ。でも、この気持ちよさから逃れることはできない……。
自分の欲望や、そんな欲から起こるジレンマに気づいたとき、「これを前向きに解消するにはどうすればいいか」と考えることでアイディアが生まれます。
人間の欲望はけっこう複雑です。しかし、自分自身の欲望に素直になることで、感情の機微を理解することができます。自分のモヤモヤとした欲望や感情の機微を言葉にすることでアイディアを考えやすくなります。自分の心に刺さるアイディアのかたちをじっくりと探るのです。
【考えてみる】あまり人には言えない自分の性格の悪い部分をちょっとだけ言葉にしてみよう。また、それを解決できる方法を考えてみよう。
先ほど告白したように、わたしは後輩に傲慢に振る舞ってしまうときがあります。何かそういう欲求を解消できるサービスがあったらいいのに……。自然にいばりつつ、アドバイス欲を満たせるものがあったら……。
じゃあ、「将来をあんまり考えずに実家でダラダラしている年下のスタッフしかいないバー」というのはどうでしょう。これだと自然と説教したくなるので、後輩を犠牲にすることなく、傲慢の欲望を満たすことができそうです。
(本原稿は、藤原麻里菜著『考える術──人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』の内容を抜粋・編集したものです)
1993年、横浜生まれ。発明家、映像クリエイター、作家。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とかつくりあげる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。SNSの総フォロワー数は20万人を超え、動画再生数は4000万回を突破、その人気は中国、アメリカ、ヨーロッパなど海外にも広がっている。2016年、Google主催「YouTubeNextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展――無中生有的沒有用部屋in台北」を開催、2万5000人以上の来場者を記録した。Awwwards Conference Tokyo 2020、eAT2018 in KANAZAWA、アドテック2016東京・関西などで登壇。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択。最新刊に『考える術──人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71』がある。