夫の急所を突いた提案
対価を支払い我を通す

 Bさん(38歳女性)は4歳の息子に複数の習い事をさせたかった。一方、夫は消極的であった。
 
「息子が家だと極端にわがままな気がして、習い事はそのわがままさを少しでも是正するために効果的かなと考えました。社会勉強というか。
 
 けれども夫はこの案にあまり賛成しませんでした。『子どもなんてみんなわがままなものだし、ある程度大きくなれば問題なくなる。子どもの頃はむしろ自由にさせるべきなんじゃ』というのが夫の意見だったのですが、話しているとどうも私を教育ママの筆頭のように考えている節が感じられました。

 自分ではまったくそんなつもりはなかったので心外でしたが、夫の前提がまずそこにあるので、私が何を言っても聞く耳を持ってもらえませんでした」(Bさん)
 
 一度こういう状態に陥ってしまうと、両者による相当な努力がないと歩み寄りは難しい。こじれた結び目をひとつひとつ解きほぐしていきながら和解の道を探るべきだが、そもそもバチバチに衝突しているので和解したいだなんて、なかなか思えないわけである。しかし、夫婦円満が必ずしも正解ということもない。和解を試みないというのも選択肢の一つであり、Bさんはその道を選んだ。
 
 Bさんはささやかな冷戦を決意して、それはそれとしてスタンスが定まったのでいったんはよかったのだが、問題は話の発端になっていて、まだ中ぶらりんになっている子どもの習い事である。
 
 Bさんは思索を巡らし、夫の急所を突けば話を通せるのではないかと思いついた。
 
「夫は財布のひもが固い人で、習い事に前向きでないのにはそこにも理由があるのではないかと思いました。そこで『習い事に関する費用は全額私が負担するから、行かせてほしい』と頼むと、『そんなにやりたいなら好きにすれば』と一応のOKが出ました」(Bさん)
 
 かくして夫婦間に軋轢(あつれき)は残ったが、Bさんの「我が子のため」は貫かれ落着した。