もともと区では昨年7月から、区の医師会役員と区内の10病院でウェブ会議を開き、病床確保に関して相談をしてきました。年末の事態を受け、治療が進んで回復した患者を、高度医療を専門としない一般病院に転院させて引き受けてもらうことにしました。

 墨東病院はER(Emergency Room、総合救急診療科)があるように、「患者を絶対に断らない」体制が求められています。そこで、回復したものの療養が必要な患者を一般病院に必ず引き受けてもらうこととし、その費用を区が補助する仕組みとして今年の1月7日に打ち出しました。

 その結果、墨東病院などで重症患者を受け入れる余地が生まれ、入院待ち患者をゼロとすることができました。病院の枠を超え、区内で医療を完結させる。これが「墨田区モデル」(下図)です。

 コロナは感染後10日たてば体外にウイルスを出すことはないと国は言っています。ただ、現場で働く医療スタッフは、それでも防護服を着なくて大丈夫なのかと不安に駆られます。そこをなんとか、各病院の院長に説得して実現してもらいました。この仕組みは都医師会からも評価してもらっています。

――東京都も病床確保に努めているとアピールしています。

 ベッドの数を増やすだけでは有効ではありません。先程お話ししたような、医療機関のスタッフまで巻き込んで運用できる仕組みにする必要があります。

 現在、同様の取り組みを江東区、江戸川区でも行っていて、うまく運用できるようであれば都全体に広げることになっています。ただし墨田区では、軽症者や回復者の病床を確保するための民間病院への支援だけでなく、病院への患者の搬送まで区の負担で行っています。金銭的な支援について、都にはいま一度、踏み込んだ対応をお願いしたいと思います。

パルスオキシメーターも早期に配布
自殺予防もコロナ具体策PRで効果

――軽症で入院の必要がないと判断された患者でも、自宅療養の間に急変するケースがあります。どのようにケアしていますか。

西塚至・墨田区保健所長にしづか・いたる/1970年生まれ。医師。公衆衛生学修士、医学博士。東京都公衆衛生医師、都福祉保健局医療安全課長などを経て20年から現職。 Photo by S.O.

 本当は、70歳以上はコロナに感染すると全員入院という基準があるのでその通りにしたいのですが、その基準では病院は入院させてくれません。

 そこで区保健所としては、看護師による訪問看護で対応し、自宅療養患者でもホテル(宿泊療養施設)並みのケアをしています。パルスオキシメーター(血中酸素飽和度を計測する器具)の配布も今年1月7日に決定しました。

――2020年の自殺者数は2万919人(速報値)で、前年より3.7%増加しました。女性だけが増加しており、コロナによる生活環境の変化や経済的な苦境などが影響したといわれています。墨田区では感染予防や治療だけでなく、区民の心の健康も重視されていますね。

 はい。災害時には、災害そのもので亡くなる人よりも、災害に関連した影響での自殺などで命を落とす「災害関連死」で亡くなる人の数が多いというケースがあります。コロナを災害と捉えれば、心のケアと自殺を防ぐ措置が必要です。

 感染症だけでなく、自殺予防ももちろん公衆衛生の重要な目標です。区民のメンタルヘルスを守り、自殺者を減らすことも、コロナ患者を減らすことと同様に重要な指標だと考えました。そこで昨年6月に相談窓口を設置し、“コロナうつ”や“コロナ疲れ”に対応するようにしました。

 また山本亨区長が区ホームページや動画で発信するメッセージには、区として取り組んでいる一連のコロナ対策について、PCR検査の1日に可能な実施件数や病床の確保状況、訪問看護の拡充など、具体的な内容やその実績を極力盛り込んでもらうようにしました。

「大変だ」とか「家にいなさい」と“脅す”だけの発信では効果はありません。区民の不安を払しょくするためには、行政として何に取り組み、その結果どのように問題が解決したのか、はっきりと示す必要があるとの判断です。

 その結果、区内の自殺者は昨年4~12月、対前年比で23.4%減少しました。

――昨年以降、コロナ対策に向き合ってきた心情を教えてください。

 国や都が示す基準はもちろん重要ですが、それに従うだけでは必ずしもうまくいかないということです。重要なのは、インテリジェンス(情報)とロジスティクス(物資)を独自に集めること。PCR検査をする能力が手元にないなら自分で作る、という考えでした。これは病床確保についても同じです。

 また、同時に重視してきたのは、経済活動との両立です。保健所が役割を果たし、大相撲の力士や向島の芸者へのPCR検査によって、検査を徹底すれば経済活動も回せる、なるべく普通の生活ができると、社会にアピールすることができると考えたのです。

 今後も諦めず、保健所としてやれることをやる。できなければ、やれる仕組みを作る、という考え方でコロナ対策を進めていきます。

(このインタビューは2月3日に実施しました)