結果的にコロナ禍と重なることとなった
「グリーン成長戦略」の公表時期

写真:シンガポール
「ESG投資」の高まりを世界各地で強く感じる。シンガポールで2019年10月に開催された、高度交通システムの国際会議「ITSワールドカンファレンス」にて Photo by K.M.

 実際、2020年から2021年にかけて行われた報道陣向けの新車試乗会等で、自動車メーカー各社の電動車の開発担当エンジニアらと対面またはオンラインで意見交換し、技術的な各論とESG投資を含めた総論を並行して議論すると、ESG投資という言葉を聞いたことがないという人も少なくなかった。

 彼らにとっては、いきなり「○○投資」と言われても、それは文字どおり「IR」(Investor Relations)の範疇というイメージで、開発者として直接関与する領域ではなく、関心が低いか、または関心がないのだと思う。

 技術の現場、さらに研究機関や教育機関の関係者が、電動車の出口戦略で最も重要視してきたことは、欧州のCO2規制、米カリフォルニア州のZEV(ゼロ・エミッション・ビークル規制、中国のNEV(新エネルギー規制)、そしてCAFE(企業別平均燃費)によるダブルクレジットなど、国や地域の行政機関が設定した規制をクリアするという点だ。

 そのため、最終的に仕上がった車という商品に対して、ユーザーに対する電動化の説明では、規制クリア優先に対する「後付け感」が見え隠れする場合が多い印象がある。はっきり言えば、「ESG投資」という観点において、ユーザーは置去りだったのである。

 今、旧来の「規制クリア最優先」のEVシフトが、実質的な「ESG投資優先」へと変異している。

 それをようやく日系の自動車メーカーの経営陣は強く意識するようになり、2020年に入ってからの四半期ごとの決算報告や、中期経営計画の発表時には、要所にESG投資への直接的な対応を示すようになってきた。

 一部の新車商品説明会において「ESG投資を意識し、我々としてこれまでに経験のない構成とした」(国内自動車メーカー広報関係者)という動きも出てきた。

 そうした中、2020年末に、電動化に関わる企業関係者や研究・教育機関の人たちが、ESG投資の重要性を再認識する出来事があった。

 2020年12月25日に経済産業省が公開した「グリーン成長戦略」である。

 2050年にカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロとなる状態)を念頭に、水素社会の実現、洋上風力発電の整備、そして車の電動化促進などの14項目について産学官連携で推進する施策であり、「グリーン成長戦略」の出口戦略としてESG投資の重要性を明文化している。

 車の電動化については「遅くとも2030年代半ば」との記載にとどめたが、菅義偉首相は2020年1月に開会した通常国会の施政方針演説において「2035年までの電動化100%」と達成目標年を明確にした。環境対応と経済活動の両立が難しいというこれまでの企業の常識を根本的に改め、税制や国際連携なども含めて、日本としてあらゆる力を総動員して産業構造の大転換を目指すと意気込みを語った。

 こうした政府の方針発表の時期について、筆者が定常的に各方面への取材や意見交換をしながら感じたのは、産業競争力の強化を優先する中で、ここでもユーザーが置き去りになっているという点だ。

 新型コロナウイルスの感染拡大における経済停滞を回復させるための、ウィズコロナまたはアフターコロナの経済対策という観点は、グリーン成長戦略に対するあくまで結果論だと思う。それよりも、グリーン成長戦略の発表時期は、前述のような2010年代後半から世界各国で一気に加速した「ESG投資に対する日本の出遅れ感を政府として払拭する」という意味合いが強い印象だ。