「脱ガソリン車」の方針を明確化
温室効果ガスのゼロ目標は現実的か
菅政権は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると表明し、それに向けて2030年代半ばまでに、ガソリン車の国内での販売をやめる方針を打ち出した。
ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授は、1991年に環境規制に関するポーター仮説を発表し、環境規制が企業に明確な技術開発のターゲットを示すことで、各社がそのターゲットに向けて効率よく技術革新を行うため、こうした環境規制は結果的にイノベーションを促進する、と指摘した。菅政権のガソリン車廃止の方針も、世界的にEV(電気自動車)の開発競争が進む中で、日本の自動車メーカーの開発競争を刺激する起爆剤となる可能性がある。
その一方で、急速なEVシフトには気をつけなければならない点が2つある。EVの早期シフトだけが必ずしも温暖化問題を解決し、日本の競争力向上に繋がるとは限らないからだ。
1つは、日本の技術的優位性の特徴にある。日本の自動車産業は、トヨタ自動車をはじめとする世界を代表するメーカーが高い国際競争力を有していて、その源泉は自動車開発の技術にある。しかしそれは、エンジンやサスペンションといった個々の要素技術が強いからではなく、個々の部品の関係性を上手く調整するノウハウにある。少し難しい話になるが、経営学ではこれを「アーキテクチャ知識」と呼んでいる。
たとえば同じPCでも、デスクトップPCとノートPCを比較すると、デスクトップPCは、部品さえ手に入れれば素人でも組み立てることができる。実際、PC専門店などでCPUやマザーボードなどの部品を購入し、自作PCを組み立てた経験がある人も多いだろう。
しかし、同じ部品から構成されるノートPCを自作する人はまずいないだろう。デスクトップPCは個々の部品と部品のつなぎ合わせが汎用的な規格で標準化され、基本的にはソケットに部品を入れたり、ケーブルをつないだりするだけでPCが完成する。なぜなら、部品同士をつなぐインターフェースが事前に規格化され、標準化されているので、標準的な部品と標準的なケーブルを接続するだけで、製品が完成してしまうからだ。
こうした製品の構成を、モジュール型のアーキテクチャと呼ぶ。モジュールとは、調整なしに組み合わせることができる部品のことを指している。PCとマウスはUSB端子で接続するが、これもUSBという事前に標準化されたインターフェースを使って、PCとマウスをつないでいるので、マウスは独立して開発することができ、どこのメーカーのPCにでも接続することができる。このとき、PCに対してマウスはモジュールであり、マウスをPCに接続するときに専用のカスタマイズなどをする必要はない。