日本の匿名掲示板として圧倒的な存在感を誇った「2ちゃんねる」や動画サイト「ニコニコ動画」などを手掛けてきて、いまも英語圏最大の匿名掲示板「4chan」や新サービス「ペンギン村」の管理人を続ける、ひろゆき氏。
そのロジカルな思考は、ときに「論破」「無双」と表現されて注目されてきたが、彼の人生観そのものをうかがう機会はそれほど多くなかった。『1%の努力』では、その部分を掘り下げ、いかに彼が今の立ち位置を築き上げてきたのかを明らかに語った。
「努力はしてこなかったが、僕は食いっぱぐれているわけではない。
つまり、『1%の努力』はしてきたわけだ」
「世の中、努力信仰で蔓延している。それを企業のトップが平気で口にする。
ムダな努力は、不幸な人を増やしかねないので、あまりよくない。
そんな思いから、この企画がはじまった」(本書内容より)
そう語るひろゆき氏。インターネットの恩恵を受け、ネットの世界にどっぷりと浸かってきた「ネット的な生き方」に迫る――(こちらは2020年3月27日付け記事を再構成したものです)
僕は天才タイプじゃなかった
自己分析が苦手な人が多い。
向いていないことを必死に努力しても、報われない。
それなのに、生存者バイアスで物事を語っても仕方がない。
たとえば、戦地において、100人が戦場に駆り出されたとする。
1人が生き残り、99人が死んだとしたら、その1人の声は残るが、残りの99人の声なき声は語られることがない。
その1人の語りが、残りの99人の代弁者になりえてしまう。そういう錯覚を乗り越えなくてはならない。
じゃあ、自分に何が向いているか。どう考えればよいのだろう。
世の中には、天才がいる。若干、頭のおかしな狂気の部分を持ったような人だ。スティーブ・ジョブズのように、論理を飛躍させて階段を何歩も飛ばしながら駆け上がるような人である。
誰も思いつかないようなアイデアを実現している人を見ると、「僕には無理だな」と思う。
僕は、他人の考えたものを説明するのが好きだし、伸ばす部分を見つけたり、改善点を指摘するほうが得意だ。
人生を振り返ると、僕なんかより面白い発想をする人がたくさんいた。
けれど、結果的に僕のような人間が企画の仕事をしているわけだ。世の中わからないものである。
ビジネスパーソンの3タイプ
仕事をする人は、次の3タイプに分かれる。
① 0から1を生み出す人
② 1を10にする人
③ 10を維持しながら11、12……にしていく人
先ほど述べた天才タイプの人は、「①」だ。
自分のアイデアを愛し、まわりを巻き込みながら没頭することができる人である。アイデアに対する自信は、ときに武器に、ときに足かせとなる。
そうやって出来上がったものを「②」の人が改善して大きくしていく。コネや経験を持っていたり、人付き合いがものをいう。
最後に、成長が止まったあと、それを維持させる人が「③」だ。大企業に就職して忍耐強く働くようなタイプだ。世の中的には、「③」の人が冷遇されてきているが、彼らには絶妙なバランス感覚が要求される。
大きな組織で新しいことをするとなると、周囲を無視したパワープレイよりも、まわりを調整しながら計画的に実行する慎重さが必要になる。一度大きくなった組織は、方向を変えるときに多大なエネルギーを必要とするのだ。
その過程が面倒になって会社を出ていくような人は、「①」「②」タイプである自信があるならばいいだろう。
ただ僕は、「③」として戦っている人を地味に応援している。
ゼロイチ以外でできることは何か?
世の中的に、あまりにゼロイチの「①」タイプが礼賛されすぎている。
起業家やクリエイターが、「アイデアを出せ」と言ってしまうのは、僕が否定している努力論と構造が似ている。
ゼロイチのパターンは、できないのであれば、潔く諦めたって別にいい。会社の雰囲気をよくするムードメーカーのポジションだって残っている。
誰にだって、他の道が残されている。そこを攻めたほうがいい。
面白いことを考えつく人は、守るべきものができると、途端に面白くなくなる。恋人ができたり、家庭を持ったり、会社で出世をしたりすると、天才が天才でなくなってしまう。
40歳になって周囲を見回すと、そうやって面白くなくなった人ばかりだ。
天才じゃない人が勝つ方法
天才タイプじゃない人でも、天才に勝つ方法がある。
それは、映画やゲームなど、エンタメにたくさんの時間をつぎ込むことだ。質で勝てないなら、量を徹底的に増やすしかない。
これも、僕にとっては「1%の努力」だ。
たとえば、マンガを10時間ぶっ続けで読むとする。
すると、「ああ、10時間もムダにしてしまった」と考えてしまう人がいるようだが、僕の場合は違う。
「10時間もエンターテインメント業界を勉強した」と考える。
誰よりも映画やゲームをやっている。だから、手札をたくさん持っている。
考え方1つで武器に変わるのだ。
2ちゃんねるというサービスは、「あめぞう」という掲示板をマネして作った。
ニコニコ動画も、ユーチューブにコメントを乗せる仕組みを作ったドワンドの社員がいたので、それに乗っかった。
どちらにも、ゼロからアイデアを生み出す力は必要なかった。
ただ、これまでのエンタメの蓄積があったので、「あ、それは面白いかも。こうすればもっと伸びるかも」という提案ができただけだ。
思ったことは客観的に伝えよう
ゼロイチの人は、面白いアイデアを考える可能性がある反面、アイデアにしがみつく傾向がある。
「自分が思いついたんだから、面白いに違いない」と、自信満々なことが多い。
だから、僕のように客観的にものが言える人は重宝される。
イエスマンになるのではなく、思ったことをちゃんと言うことで、立場を勝ち取ったほうが、あとあとラクだ。
僕が本を出すのもそうだ。
「何か書きたいものを書いてください」と言われてしまうと、何も出てこない。
けれど、編集者が「ひろゆきさんのこの部分を伝えたい」とゼロイチの部分を持ってきてくれれば、そのイチに対して持っているものを足していくことができる。
本名:西村博之
1976年、神奈川県生まれ。東京都に移り、中央大学へと進学。在学中に、アメリカ・アーカンソー州に留学。1999年、インターネットの匿名掲示板「2ちゃんねる」を開設し、管理人になる。2005年、株式会社ニワンゴの取締役管理人に就任し、「ニコニコ動画」を開始。2009年に「2ちゃんねる」の譲渡を発表。2015年、英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。2019年、「ペンギン村」をリリース。新刊『1%の努力』(ダイヤモンド社)を刊行。