北極圏での戦闘を想定した訓練を受ける米陸軍特殊部隊チーム(スウェーデン北部)
【カーリクス(スウェーデン)】高度な訓練を受けた米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」の隊員12人が、スウェーデン北部の松林をゆっくりと進む。真新しいスキーで転ばないように苦労しながら、丘や凍った小川を越えてそりを引いていく。
彼らは世界的な対テロ戦争に従軍してきた経験豊富な兵士で、北極圏での戦闘を想定した訓練を受けていた。そして、極度の寒さが人間の敵と同じくらい過酷であることを実感しつつあった。
北極圏の近くでは、気温が常にカ氏マイナス30度(セ氏マイナス34度)前後で推移していた。訓練開始から数日後、中東・アジア地域のジャングルや砂漠で何年も過ごした経験を持つ隊員がチームから外された。この寒さの中、屋外で一晩過ごした後に、指にサクランボ大の腫れ物ができたためだった。別のチームでは、欧州の兵士が入院し、足の指2本の一部を失う危険にさらされた。教官らによると、この兵士は、汗をかいた靴下を履き替えなかったとみられる。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者はこのたび、グリーンベレーの12人編成のチーム「Aチーム」に同行し、自身も10日間訓練を受けた。隊員らは、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が派遣した兵士約100人の一部で、この3週間にわたる過酷な冬季戦闘訓練に参加した。
隊員のほとんどは、アフガニスタンやイラクでの戦闘に参加するなど、10年以上の従軍経験があった。WSJは任務の機密性を考慮し、兵士の身元を明かさないことに同意した。
北極圏の戦略的重要性は高まっているが、このAチームが思い知らされたように、その気候はあまりに過酷で、実戦経験豊富な兵士でさえ生き延びるのがやっとだ。ましてや、ここで戦争を遂行するなど不可能に近い。
「化学兵器で戦わないことに合意したように、ここでは戦闘をしないという合意を目指そう」とAチームの軍曹は述べた。休憩中、隊員らは手首を曲げ、左右に伸ばした腕をポンプのように動かした。これは、地元の人々が指を温めるために行う、ペンギンのような運動だ。Aチームの衛生兵も軍曹に同調し、「いっそ各国が協力して『この境界線から北では戦わない』『そんなことはしない』と決めてしまえばいいんじゃないか」と述べた。
米特殊部隊チームの軍曹は「ここでは戦闘をしないという合意を目指そう」と述べた Photo:Eve Hartley/WSJ
北極圏は、NATO・ロシア間の紛争が発生した場合に中心的な役割を果たす可能性が高い。他の場所での紛争が波及した結果であっても、直接的な対立であっても、そうなるだろう。ロシアはNATO加盟国以外で唯一の北極圏国家だ。
ロシアの原子力潜水艦と砕氷船の大半は、北極圏のコラ半島に配置されている。ロシアの地上発射弾道ミサイルが北米に到達する最短ルートは、北極圏を通過するルートだ。北欧諸国にとっての懸念は陸上侵攻で、ロシアはフィンランドおよびノルウェーと約1600キロメートルの国境を接する。ロシアが侵攻してきた場合、米国を含むNATO加盟国は、氷に覆われた広大な地域を防衛するために北上するだろう。
「北極圏はNATOの集団安全保障にとってますます重要性を増している。北極圏8カ国のうち7カ国がNATO加盟国であることから、この地域における安定と協力がNATO加盟国の共通の利益であることは明白だ」。欧州全体の特殊部隊作戦の調整役である連合特殊作戦軍司令部のリチャード・E・アングル司令官(中将)はそう語る。20年にわたる対テロ活動とウクライナ戦争から得られた教訓を、今度は北極圏でも生かさなければならない、と同氏は言う。







