待遇を考えないと人材が集まらない

工藤 東京都は私学助成金も多いし、私学の教員は基本的に年収が高い。かつての都立高校がいい教員を集められたのと同じ構造です。都の教育委員会が許可して、都立高の先生が予備校にアルバイトで教えに行っていた。参考書だ、副読本だといった仕事もいっぱいあった。

 校長だからではありません。収入の問題だけでなく、兼業は自己啓発にもつながっていた。

 石原慎太郎氏が都知事の時、都立病院の先生のアルバイトを禁止した。その途端、ドクターたちの独立開業が一斉に始まった。高収入の保証なしにいい人材が集まらないのは、教育界も同じです。

――待遇を考えないと日本の教育界が人材を失ってしまうと。

工藤 日本の風土として、おカネもうけはダメというような空気が強かった。明治時代の風土がいまだに残っているのかもしれません。

 ただ、教育でおカネもうけだけを考えてはいけません。灘、東大、経済産業省という経歴の鈴木寛氏が文部科学省の副大臣をやった頃から、教育の分野に異業種からの参入が増えてきました。ビジネスチャンスありと新しく教育事業に参入してきた企業に対して、私は「本当に子どもが好きなのですか?」と聞いてみたいです。

 また、今注目されている通信制のN高・N中に対しても、批判的な立場をとっています。特に、N中は学校教育法に基づく一条校ではないので、フリースクールと同じ無認可校です。公立中学校に籍があるので、N中に通っても、不登校という扱いになってしまうんですよ。

――工藤先生は事務長も兼務されましたね。

工藤 36歳から6年間、教員もしながら事務長もやっていました。

――非常に珍しいキャリアですね。

工藤 たまたまそういうこともしていたので、学校経営的なことにもある程度詳しくなりました。私立校は中小企業です。僕は実家が自動車部品メーカーでしたので、中小企業の経営感覚が肌身で分かります。

――やはり、そういうところが大事ですね。

工藤 僕が一番腹の立つことは、「今の若者は独立心がない」「安定志向である」といわれること。それってこれまでの日本の金融システムが作ったことです。昔は起業時に金融機関が連帯保証人を求め、失敗したらすべてむしり取られました。そんな環境で誰がやるのかと。今は企業が初期投資をしてくれたり、クラウドファンディングがあったりで、東大生をはじめ、多くの賢明な若者が起業にチャレンジするようになった。それはすごくいいことだと思います。