本から学ぶというのは、内容を覚えることではない。読みながら、「え、そこはそうくるの?」「なるほど、でも、俺は違うんだよね」「そうそうそう、わかる!」……という具合に、本と対話することだ。本の内容をそのまま頭に入れるのではなく、主体的に自分と関連付けていくことだ。自分で選んだものだから、頭に残る。現実の問題解決の役に立てることもできる。
人と対話しながら学ぶことを通じて、僕は本からも学べるようになった。
相手が打ち返しやすいボール(仮説)を投げる
本から学ぶのも、人から話を聴くのも、対話だ。対話をするからこそ学べる。
対話である以上、相手が話しやすくすることは忘れてはいけない。
僕が気をつけているのは、常に相手が答えやすいようにこちらから話すということ。つまり、打ちやすいボールを投げることだ。
この場合のボールとは、その人の話を聴くうえでの、僕なりの仮説のこと。
たとえば、最近、ある建築家からお話をうかがう機会があった。
僕が学びたかったのは、ざっくり言えばその方の仕事に対するスタンスだった。
とはいえ、いきなり「あなたの仕事のスタンスを教えてください」と質問しても、相手は「え、仕事のスタンス? そうですねえ」と困ってしまうだろう。つまり、打ち返しにくいボールを投げてしまっていることになる。
そこで、自分なりの仮説を立ててみる。
建築家という仕事は、アーティストとビジネスパーソンの間というイメージがある。アーティストとしては、自分の感性のおもむくままに建物を設計したい。でも、それではビジネスとしては通用しないだろう。その建物を使う人が何を求めているか、どんなふうにそこを活用するのか、という考え方が不可欠で、それはビジネス的なデザインの領域だ。
つまり、建築家の仕事にはビジネスの部分とアート部分の両方が必要になる。いや、それは他の仕事でも同じだ。ビジネスとアートの割合が、商業的なプロダクトを作る場合にはアート1、デザイン9くらいになる。アーティストならアート9.5、デザイン0.5くらいかもしれない。建築家だと、それが5対5なのだろうか……。
そんな仮説を立てて、まずはそれを話してみる。そのうえで、「お仕事には、アートとビジネスの要素があると思いますが、たとえば、その割合はどのくらいなものですか? 私が勝手に思うに、こんなことではないかと思うのですが」と聞く。これなら相手は答えやすい。
本を出していたり、メディアで発言していたりする人に会う機会もある。そういう場合も、仮説は重要だ。
すでに相手の考えていることを本などを通じて知っているわけだから、これを仮説に利用する。