つまり、「あの本にこんなことが書いてありましたが、それはこういう意味でしょうか?」と、自分なりの解釈を仮説として投げる。

 すると、「伊藤君、それはちょっと違っていて……」 「つまり、それってどういうことですか?」とやりとりが発生して、話が発展していくわけだ。

 仮説は仮説だから、当たることもはずれることもある。当たれば「そうなんですよ、よくわかりましたね」と相手は乗ってきてくれるし、はずれていたらどこが違うのかを説明してくれる。いずれにしても、相手が話しやすくなるという効果がある。

 人と会うのに、わざわざ仮説を用意していくなんて面倒だと感じるのかもしれない。僕の場合は、「会って話して、その人からの学びが少なかったら、自分の負け」という意識がある。学びが少なかったと感じたとしたら、その人のせいではなくて、論点を作れなかった自分が悪かった、と考える。だから、ちゃんと仮説を準備していこう、と思う。

 こんなふうに、人と会う前にちゃんと準備をしていくこともギブのひとつだ。

 あなたに敬意を持っているから、あなたとの対話の機会を無駄にしないように努力をしています、というメッセージになる。

 僕の場合、もともとコミュニケーションが苦手だし(だからこそプレゼンテーションを必死で勉強して、いつのまにかプレゼンの専門家扱いされるようになった)、誰と会うにしても「ちゃんと話せるだろうか」「話が盛り上がらなかったらどうしよう」という恐怖がある。怖いからこそ、自然に準備をする、ということだ。

困っている人に傘を差し出そう

 一定期間で成果を出す仕事なら、やるべきことははっきりしている。目標からto doに落とし込んでいけばいい。

 それに比べると、「目先の成果を考えずに仕事をする」のは、かえって難しいと思うかもしれない。

 けれども、複雑に考える必要はない。

 それは、わかりやすく言えば「困っている人に傘を差し出そう」ということだ。

 ビジネス書で、営業のノウハウについて書いた本は多い。その中には、保険とか自動車とかのトップセールスマンが自分のやり方を伝授するというタイプの本があって、よく読まれている。僕も10年くらい前にこういう本を何冊か読んだ。それでわかったのは、トップセールスの人たちがやっているのは、ようするに新規開拓ではなく既存のお客さんを徹底的にサポートすること。商品のアフターサービスはもちろん、時にはお客様の個人的な困りごとにも対応する。すると、お客様の感謝と信頼を勝ち取ることができ、別のお客様を紹介してくれるというわけだ。

 僕は、「確かにそうだよな」と納得した。

 同時に、「こういうやり方を教える本が売れるということは、世の中のビジネスパーソンはこれができていないんだ」とも思った。そして、自分はそれができていたことに気づいた。