震災後の10年で、多くの訴訟が提起されたのは周知の通りだ。その判決でも「津波は予見できた」というものから、「予見は不可能」と断じた全く正反対のものもあった。10年という歳月が経過した今だからこそ落ち着いて考えることができると思うのである。

 私は、もし、あの津波を予見できた人がいるなら、今からでも遅くない。ぜひ、名乗り出てほしいと思う。そして、1万8400人を超える痛ましい死者・行方不明者を出したこの悲劇を回避すべく、「あなたはなぜ警告しなかったのか」を教えていただきたく思う。

東電と国に賠償を命じた
前橋地裁判決のお粗末さ

 2017年3月17日にあった前橋地裁(原道子裁判長)の判決を見てみよう。これは、福島第一原発事故後に福島県から群馬県に避難した住民137人が国と東京電力に「津波の到来は予見でき、事故を防ぐことができた」として損害賠償を求めた集団訴訟である。ここで原裁判長は、東電と国は「津波を予見できた」として責任を認め、計3855万円の賠償を命じたのだ。

 私はデビュー作として『裁判官が日本を滅ぼす』を2003年に上梓しているので、日本の裁判官がいかに“専門バカ”であるかを知っている。だから判決に驚きはなかった。しかし判決理由を読んで、事実認定のあまりのお粗末さにあきれてしまった。

 もし、判決が示すように、国も、東電も、あの大津波を「予見」し、「結果回避義務」を怠ったのなら、当時の総理大臣も、各自治体のトップも、これだけの犠牲者を出したことに対する罪を負わなければならない。

 こういう判決では、必ず一見もっともらしい根拠が示される。2002年7月に文部科学省の「地震調査研究推進本部(略称・推本)」が打ち出した<三陸沖から房総沖の海溝沿いのどこでもM8クラスの地震が発生する可能性がある>という見解がそれだ。これを判決は<地震学者の見解を最大公約数的にまとめたもので、津波対策に当たり、考慮しなければならない合理的なものだった>としている。