さっそく、近くの病院内科を受診し、MRI検査を受けたところ、脳には異常は無く、「末梢(まっしょう)性顔面神経麻痺」と診断され、ステロイド、ビタミン剤の処方を受けた。

「あの、私はなぜ、このような病気になってしまったんでしょう」

 顔の左側が麻痺していることは、診断結果を聞くまでもなくわかっていたが、あまりにも急だった上に痛みもあるので、なんとか不安を軽くしたかった。

「うーん、そうですねぇ。顔面神経は痛みを感じる神経ではないのでね、今の顔面神経麻痺と痛みは関係がないと思います。麻痺は、脳幹から末梢の顔面神経に障害が生じる末梢性顔面神経麻痺といって、顔面神経麻痺の約9割を占める疾患です。痛みのほうは原因不明の、『非定型顔面痛』ですね」

 結局、自分に何が起きているのかよくわからないまま、処方された薬を飲むこと6カ月、顔面神経麻痺は次第に改善してきたが、痛みは全く治まらない。

 業を煮やし、地域の市立総合病院の神経内科を受診すると今度は、麻痺は顔面神経麻痺で痛みは「三叉(さんさ)神経痛」と診断された。顔面神経麻痺と痛みは関係なく、手術を受ければ改善する可能性があるとのことで、医学部付属病院の脳神経外科を紹介されて受診した。

 だが、顔面神経麻痺には引き続きビタミン剤の服用を進められ、痛みについては症状およびMRI検査の結果から三叉神経痛ではなく「やっぱり非定型顔面痛でしょう」とのことで、手術の適応ではないと診断されてしまった。

 その後、市立総合病院神経内科に戻り、ビタミン剤の処方を受けるうちに顔面神経麻痺は軽快したが、痛みは一向に改善しないまま2年が過ぎた。その間、数軒の耳鼻科、内科を受診したが、いずれも「原因不明」で何もしてもらえない。痛くてひげそりができない、熱いお茶が飲めない、香辛料が辛くて食べられないなどの苦痛に耐える日々は、外交的で歴史好き、史跡をめぐる旅が趣味だった明るいシンペイさんを、抑うつ状態に追い込んだ。

「ねえ、お父さん。耳鼻科とか内科じゃなくて、口の中や顔の痛みを専門に治療する『口腔顔面痛専門医』というのがあるんですって。ネットでクリニックを見つけたから行ってみようよ。予約してあげる」

 心配した娘の提案で、口腔顔面痛の専門医を受診したものの、正直、あまり期待はしていなかった。