『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
[質問]
指導教官に恐怖感を抱いており、卒業研究の相談ができず困っています
卒業研究をしている大学生3年生です。指導教官に恐怖感を抱いており、卒業研究の相談ができず困っています。読書猿さんは似たような経験があって、解決済みでしたら、解決した方法を教えていただけないでしょうか?
以下現在の状況になった経緯を書いていきます。
春頃卒業研究を行うために実験の指導をしてもらっていたのですが、基本的に叱責されていました。先生の言っていることは間違っていないのですが、毎度毎度怒られるので、次第に実験を教えてもらうのが億劫になり、同じ研究室の人に実験のやりかたを聞くようにして先生を避けるようにしていました。
夏休みに入り、卒研について相談に乗ってもらった時も調査不足を度々指摘されていました。これもおかしなことは言われていないのですが、言い方が自分にはつらく感じ、相談しても傷つくし相談したくないと思うようになりました。しかし、私の卒業研究は全然うまくいっておらず先生の助言が必要な場合が多いため、先生と話す必要があります。この感情と状況の不釣り合いを解消できないままズルズル来ていて、結局卒研はほとんど進んでいません。
以上が先生に恐怖感を抱くようになった大まかな経緯です。
今では研究室に行くのも、先生とばったり出会わないかを気にしながら行くようになっています。先生はハラスメントになるほどのことをしてはいないと思うのですが、先生のすることに過剰に怯えてしまいます。卒業研究開始時は楽しみで一杯でした。しかし、今はもう早く研究はやめて卒業したいという気持ちでいっぱいです。
寝つきも悪くなり、趣味にも支障が出るようになっています。
どうにか解決して残りの大学生活を心穏やかに過ごしたいと思っています。
お時間がございます時に、この質問について言及していただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。
批判されることは辛くて当然
[読書猿の回答]
最終的には(可能ならば)研究室を変わる話かもしれませんが、指導が理不尽だった訳でもないし、あなたも状況を一定客観視できているので、ご質問に書かれたことを指導教官に相談すれば(研究室を移ることも含めて)解決の道は見つかる気がします。
一言だけ付け加えるなら、学術におけるコミュニケーションは批判に始まり批判に終わります。近しい間柄であればあるほど苛烈な批判をするのが健全な学術コミュニケーションです。
お互いの知的営為を批判によって結びつける(切り結ぶ)からこそ、過ちの多いヒトという生き物が、お互いの認知的脆弱性を克服して、知識を更新し改訂していくことができます。
そのため学術の世界で一時を過ごすには、学問上の批判と人格攻撃を切り離せないと精神的につらいです。
しかし他の社会ではこの切り離しはあまりないことなので、慣れない人が出てくるのも無理からぬ話ではあります。
いや、ぶっちゃけ慣れても、つらいものはつらい。
落ち込むと自分だけがダメなのではないか、今回の場合だと、ちゃんとした指摘や当然の批判なのに傷ついてしまう自分だけが特別弱いのではないか、などと思いがちですが、それは違います。
あなたと研究室の他の人の差はほんの紙一重、おそらくあなたが回避できたことを、他の人たちはできなかっただけだと思います。
人間心理の仕様として、不安や恐怖は回避することで増悪します。回避によって不安や恐怖は大きくなり、ますます回避したくなり、回避と不安や恐怖は正のフィードバックがかかって増大していきます。こうして最初はちょっといやだなぐらいのことも回避し続けるととんでもなく大きな恐怖に成長します。
逆にうまく逃げられなかった人たちは、そのことで恐怖や不安に次第に慣れていきます。相変わらず、つらいことはつらいのですが、逃げ出すまではいかないレベルに落ち着いてきます。
最後になるかどうかともかく、いずれにせよ、もう一度だけは、担当教官と話をすることになると思います。上記のことを心にとめておけば、次は逃げ出すことに失敗しやすくなるかもしれません。