『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が10万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
(こちらは2020年12月の記事を再掲載したものです)
[質問]
賢く立ち回れるようになれる処世術の指南書はないでしょうか?
読書猿先生へ。
こんなことを聞くのは人の道から逸れているのを承知の上でお尋ねします。
今まで、謙虚に正直に人を信用して優しく接して生きるように教えられてきました。しかし、そのせいで振り返ると、自分にとって嫌な思い、不利益な経験の方が多かったな……と思っています。狡猾になりたい、と思いました。賢く立ち回れるようになれる処世術の指南書はないでしょうか?
親切な集団で生きるか、疑心暗鬼な集団で生きるか
[読書猿の解答]
親切な振る舞いが報われるかどうかは相手によります。相手の親切につけこむ悪い人が多い環境だと、確かに、親切に行動することは適応的でないことになります。こういう悪い人ばかりの環境で育つと、親切な振る舞いを身につけることができません。尊大で嘘ばかりつき疑心暗鬼で周囲に攻撃的にしか振る舞えなくなります。
しかし尊大で嘘ばかりつき疑心暗鬼で攻撃的な振る舞いをお互いにしていてはストレスが多いでしょう。こうした人達の集団では上下関係を固定して一方的に相手を攻撃してストレス解消とするような関係が繁殖しがちです。人の下のポジションになれば、搾取と攻撃の対象になるので、自分を強く見せるための虚勢が必要になります。こうした集団で生きるには、尊大で嘘ばかりつき疑心暗鬼で攻撃的にならざるを得ません。
そもそも相手を信用できない関係が続くと、いろんなリスク管理や心配をし続けなくてはならずコスト高です。貴重な認知資源をそうした心配に消耗していては、パフォーマンスも上がりません。様々な足の引っ張りも横行して集団としても成果を上げにくいでしょう。成果が上がらないので、ますます少ない儲けを取り合う争いが生まれます。
できるならお互いに親切である方が楽で快適で成果も上がります。
なので親切な人は親切な人ばかりの集まりを作ろうとします。親切な人につけこむ悪い人が入ってくると、親切な行動が適応的でなくなりますから、このことは自然です。親切な人たちは様々な有形無形の参入障壁を設けて悪い人が入って来ないようにします。
以上が、あなたの親しい人があなたに親切に振る舞うように教えた理由です。これができないと、将来、パフォーマンスが低いばかりかお互いを傷つけ合うストレスが高い集団でしか生きていけなくなるからです。
もちろん親切に振る舞うことは、親切な人達の集団に参加する必要条件ではあっても、それだけで参加が約束されている訳ではありません。
また「貧すれば鈍す」という言葉がありますが、外部状況が悪化して集団の儲けが減れば、非親切行動は短期には自分の分け前を増やすことがあるので、尊大で嘘ばかりつき疑心暗鬼で攻撃的な非親切行動が増加することもあります。
非親切行動に繰り返し接すれば、元は親切な人であっても、非親切行動に走りたいと思う可能性があるからです。ちょうど、今のあなたのように。
以上を読んで、もう二度と親切に振る舞おうと思わない、尊大で嘘ばかりつき疑心暗鬼で攻撃的な人たちの集団で、その人達と同じように他人を貶め攻撃し搾取する生き方を続ける覚悟と諦めができたら、また私に質問を投げてください。