スタンフォード大学・オンラインハイスクールはオンラインにもかかわらず、全米トップ10の常連で、2020年は全米の大学進学校1位となった。世界最高峰の中1から高3の天才児、計900人(30ヵ国)がリアルタイムのオンラインセミナーで学んでいる。
そのトップがオンライン教育の世界的リーダーでもある星友啓校長だ。
全米トップ校の白熱授業を再現。予測不可能な時代に、シリコンバレーの中心でエリートたちが密かに学ぶ最高の生存戦略を初公開した、星校長の処女作『スタンフォード式生き抜く力』が話題となり、ロングセラーとなっている。
ベストセラー作家で“日本一のマーケッター(マーケティングの世界的権威・ECHO賞国際審査員)”と評された神田昌典氏も「現代版『武士道』というべき本。新しい時代に必要な教育が日本人によって示されたと記憶される本になる」と語った本とは一体なにか。このたびスタンフォードにいる星校長と独自の留学プログラム「トビタテ!留学JAPAN」プロジェクトディレクターの船橋力氏が初めて対談。今後の日本の子どもたちをめぐる最新情報とゆくえを紹介しよう。(これまでの人気連載はこちら)。(構成・藤澤宗生)

オンライン授業Photo: Adobe Stock

教育の分散化

それでも教育に学校がいるのか?<br />オンラインとローカルが進化するミライ船橋 力(ふなばし ちから)
1970年、横浜生まれ。幼少期と高校時代を南米で過ごす。上智大学卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社し、アジア等でODAプロジェクトを手掛ける。2000年に同社を退社後、株式会社ウィル・シードを設立し、企業および学校向けの体験型・参加型の教育プログラムを提供。Facebook 創立者のマーク・ザッカーバーグやYouTube創立者のスティーブ・チェンらが選ばれた世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ 2009」選出。2014年、日本のグローバル人材育成を目的とした官民協働プロジェクト「トビタテ! 留学 JAPAN」ディレクターに就任。独自の留学プログラムを発案し、約1万人の高校生、大学生を海外に送り出した。著書に「トビタテ! 世界へ」。(※今回のインタビューでは個人的な立場でお話いただいています)

星友啓(以下、星):この対談最後のテーマは、ずばり教育についてです。日本の教育をどう思われますか。

船橋力(以下、船橋):初等教育の読み書きそろばんにおいて多くの生徒をきっちり一定のレベルまで持っていくところは評価できますが、ベースができた後のクリエイティビティやクリティカル・シンキングが必要とされる段階になると弱いということが一般に言われていると思います。

しかし、初等教育でベースをつくっていると言いながら、それは単なる正解主義であり、正解を導く思考と方法をたたき込んでいる時点で完全に時代に逆行していますよね。その最たるものが受験です。

特に日本の私立の中学受験は、小学校で教えないことまで平気で出題しますし、子どもよりむしろ親の管理能力と気合が試されている感もある。いい中学に入れば将来の選択肢が増えると言いますが、本当に必要なものがこれなのか、それによって失っているものはないのか、と愕然とします。AIが出てきている時代にひたすらパターン認識を訓練させることに何の意味があるのか。

星:教師の役割についてはいかがですか。

船橋:私見をぶっちゃけて言うと、知識を教えるのはすべてオンライン授業でいいのではないかとも思います。一番上手な先生の教材をみんなが見る。その上で先生は教室内でのファシリテーターやモデレーター的に疑問点や探究したい点を深める、補足する。理解していない子をフォローしたり、もっと進みたい子に違う情報を与えるなど。あるいは、あるべきは先生には得意な教科に集中してもらう。新卒の小学校の先生が全教科教えるというシステムに無理があると思います。先生が一番好きで得意な教科を教えるのでなければ、子どもたちに伝わらない。1教科に3年間じっくり取り組んでから次の教科も教える。そうして、一人の先生が教えるのはトータル3教科で十分です。オンラインとの併用なら可能だと思います。

星:では、これから日本の教育はどういう方向に向かっていくのがいいとお考えですか。

船橋:日本の組織と同じく、現代の日本の教育も画一的で中央集権的であり、時代に合っていないと思います。もっと分散的でいいのではないでしょうか。

江戸時代、藩ごとに違う教育をしていたように、それぞれの地域、それぞれの学校、それぞれの先生がやりたいことをやる。そのほうが子どもたちの好奇心に訴えるはず。学ぶのが楽しいと思ってもらうことが一番大切です。まさに、ティール型というようなイメージでしょうか。

星:私も著書『スタンフォードが中高生に教えていること』の中で「教育の分散化」について書きました。勉強も部活も、学校に行けば何でもある――そういうワンパッケージとしての学校の時代は終わったと感じています。オンライン化が進んで、アカデミックな部分はどんどん分散していく。

じゃあ、学校に何が残るのか。

私が希望も含めて期待しているのは学校が持つ居場所やコミュニティ・ハブとしての機能です。

どこの先進国でもコミュニティが形骸化していく中、オンラインではやりにくい社会性、感情、運動、部活……人と人との活動の部分で学校が地域での人と人とのつながりのなかで存在感を出してほしいですね。