中国の証券会社の日本進出が本格化している。

 昨年9月、中国国内に109店の支店を構える中国第6位の申銀万国証券は、駐在員事務所を日本に開設した。

 これまで同社は、藍澤證券など日本のリテール証券(個人投資家を主な顧客とする証券会社)と提携し、中国株の注文の取り次ぎや情報提供を行なってきた。2004年には原則として中国国内投資家のみ売買が許可されている中国A株の投資信託を藍澤證券向けに設定している。

 そんななか、同社が駐在員事務所を開設したのは、「提携する日本の証券会社や機関投資家などと密なコミュニケーションを取るため」(東京駐在員事務所の下山田仁・首席代表)で、日本でのビジネスを拡大する意図がある。

 実際、かねて中国株の取り扱いを狙っていた大阪の中堅証券である岩井証券も申銀万国証券と提携、今年6月末にも日本の個人投資家からの中国株の注文を取り次ぐ。岩井証券の沖津嘉昭社長は「東京に駐在員事務所があることに加え、同社から積極的なアプローチがあったことが大きい」と明かす。

 この申銀万国証券以外にも、少なくとも2社が現在、駐在員事務所の開設を検討中だ。なかには、「すでに日本国内で人材募集を行なっている証券会社もある」(業界関係者)。

 これらの背景には、今年2月以降、中国の実体経済のV字回復機運の高まりを受け、日本の個人投資家による中国株の売買が復活し始めていることもある。

 藍澤證券の中国株の約定代金は、今年1月には底を打ち、5月には1月の約6倍の水準に達した。中国株投信の預かり残高、口数も共に上昇している。

 これだけにとどまらない。日本の証券会社の買収を検討している証券会社まで現れた。

 中国では、証券会社による海外証券への投資が07年に解禁された。これを受け、中国の個人投資家向けに日本株投信などを販売していきたい中国の証券会社が、日本の上場証券会社に狙いを定めている模様だ。買収すれば、日本の証券会社への手数料の支払いの必要もなくなる。

 A株を直接売買できるかどうかも、日本の個人投資家にとって気になるところだ。現状では、中国政府保有率が半分以上で、これをどう流通させていくか具体的なスケジュールは未定だが、徐々に規制は緩和されつつある。

 すでに売買を認められている日本の機関投資家もあり、今後、個人投資家も売買ができるようになる可能性は高い。

 中国当局も、「証券会社の国際競争力の強化を推し進めている」(野村資本市場研究所の神宮健・北京駐在員事務所長)。手数料収入の増加による収益基盤の強化を目指す中国証券の日本進出は、今後加速しそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)