実は、弱気なことを言う人の本音は口に出していることとは裏腹に、決して弱気ではないのだ。もし本当に下がると思うのなら、それに合った行動を取るはずである。例えば株を空売りする、ベアファンドを買う、インバースETFを購入する、といった行動を取れば、株が暴落した時にはもうかるからだ。
ところが、筆者の知る限り個人投資家で「きっと下がるよ」と言っている人がこういう行動を取るのはあまり見たことがない。本音では株はまだ上がると思っているからだ。上昇相場に自分が少し乗り遅れてしまったので、今から買うのは悔しい。だからもう少し下がったら買いたいと思うから、弱気の発言が出てくるのだ。これは昔から相場の用語で「買いたい弱気」と言われるものだ。
こういう心の動きを心理学では「認知的不協和の解消」という。認知的不協和とは、自分の思う通りにならない、自分が判断を間違えた、でもそれを解決するのに自分の力ではどうにもならない時、心の中に葛藤が生じる状況のことだ。そんな時、人は「状況が変わらないのであれば解釈を変える」という手段で心の矛盾や葛藤を解決する。これが「認知的不協和の解消」なのだ。
わかりやすい例えとして、イソップ物語の「キツネと酸っぱいブドウ」の話がある。ある時、キツネがたわわに実るブドウを見つけた。食べたい、取りたいのだが、キツネは背が小さいのでジャンプしても何をしてもブドウには届かない。つまりキツネの心の中には「食べたいけどブドウが手に入らない」という葛藤が生じる。それでも自分の力ではどうにもならない。そこでキツネはこう考えることにする。「あのブドウはきっと酸っぱくておいしくないに違いない」。つまり、そう考えることで心の不協和を無くそうとするのだ。
上昇相場で乗り遅れた人も同じ心理だ。買わないうちに相場が上がってしまったことは事実である。でも自分の力で相場を元の上がる前の水準に戻すことは不可能だ。そこでその投資家はこう考える。「今の相場は高すぎる、きっとそのうち、下がるに違いない」、だから弱気の発言になるのである。