「心理的安全性」の罠
最近、こうした状態に対して、何でも遠慮なく言い合える関係をつくる「心理的安全性」の重要性が叫ばれています。
しかし、心理的安全性は結果的に高まるものであって、心理的安全性を高めることに注力するのは慢性疾患悪化への入口と言えないでしょうか。
盲点は、互いに何でも言い合えるようにすることにフォーカスしすぎて、どんな理由があって言いたいことを言い合えなくなっているかがほとんど考えられていないことです。
そのひも解きは一筋縄ではいきません。
そのときに大切なのが、様々な小さな問題の勃発です。
慢性疾患に関連した小さな問題は発生しますが、そのときに、自分がその問題にどう関わっているのかが見えているかどうかが大きな分かれ道です。そこが見えていないと、相手のせいか、自分のせいかという問題にすり替わってしまいます。問題は複合的に起きているのであって、誰か一人のせいではないのです。
結果だけを見て、背後のメカニズムを見ようとしないアプローチでは心理的安全性は高められません。
表面的なコミュニケーションの取り方では、すぐに元の悪い状態へと戻ってしまいます。
大事なことは、問題にしっかりと向き合うことです。
問題に向き合うとは、自分が問題の一部と自覚すること、自分と問題の関わりを見つけることです。自分にできることが何かを見出せることと言い換えられます。
そうした問題に向き合う方法が対話なのです。
そして、対話を通じて「心理的安全性を高めよう」という表面的な問題解決に縛られず、より広く、深い視座での問題へのアプローチが大切になります。
対話とは一体どんなものか、本書ではじっくり解説しました。ぜひご覧いただけたらと思います。
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経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。