トヨタ自動車のオウンドメディア「トヨタイムズ」に、「船橋(ふなはし)株式会社」という雨ガッパを長らく製造している会社のエピソードがあります。

 同社は、国や自治体からの要請を受けて医療用防護ガウンの製造を始めます。

 しかし、生産量がどうしても追いつかないため、新聞紙上で協力を呼びかけました。

 すると、トヨタ自動車の工場で現場のカイゼン活動を担うエキスパートたちがやってきて、一日500着しかつくれなかったガウンを有志の企業連合全体で5万着つくれるようになったというのです。

 100倍の生産量になったのですから、とんでもないことです。しかし、数字以上に、船橋株式会社の物語がカイゼン活動を重ねる中で変わっていく過程には、極めて興味深いものがありました。

 当初、500着だった生産量が、カイゼン活動を始めて1000着、2000着とつくれるようになったところで、トヨタ自動車の一人が、「これは5000着いけますね」と言ったそうです。工場長は、「そんなの無理」と思ったそうですが、今では船橋株式会社一社だけで6000着つくれるようになりました。

 それだけではありません。

 同社は現在3代目が社長を務めていますが、そのご子息は家業を継ぐ気はないと、理科系の大学に進学していました。しかし、医療用防護ガウンを通じた世の中への貢献に胸を熱くし、会社を継ぐ決意を固めたというのです。

 さらには、この事業をもっと発展させるべく、新会社の設立まで検討しているというではありませんか。

 これは、単に、医療用防護ガウンの生産スピードが上がっただけではなく、社内で物語が変わったことを意味しているのです。