リモートワークが長期化している今、わかりあえない上司と部下の「モヤモヤ」は最高潮に達しているのではなかろうか。さらに、経営層からの数字のプレッシャーが高まる一方で、部下にはより細やかなマネジメントが求められる。仕事を抱え込み、孤立無援のマネジャーたちの疲弊度も限界にきている。そこで今回、「HRアワード2020」書籍部門 最優秀賞を受賞した『他者と働く』著者・宇田川元一氏が最新刊『組織が変わる――行き詰まりから一歩抜け出す対話の方法 2 on 2』で、新しい対話の方法「2 on 2」を初公開した。早くもこんな感想が届いている。
早速夜更かししそうなくらい素晴らしい内容。特に自発的に動かない組織のリーダーについてのくだりは!
読み始めていきなり頭をパカーンと殴られた。慢性疾患ってうちの会社のこと? すべて見抜かれている
『他者と働く』が慢性疾患の現状認識ツールなら、『組織が変わる』は慢性疾患の寛解ツールだ
言語化できないモヤモヤの正体が形になって現れる体験は衝撃でした
職場に活気がない、会議で発言が出てこない、職場がギスギスしている、仕事のミスが多い、忙しいのに数字が上がらない、病欠が増えている、離職者が多い……これらを「組織の慢性疾患」と呼び、セルフケアの方法を初めて紹介した宇田川氏。我々は放置され続ける「組織の慢性疾患」に、どんな手立てを講じられるのだろうか。著者の宇田川氏を直撃した。

同じ方向Photo: Adobe Stock

「同じ方向を向くことが大切だ」への違和感

 よくビジネスでは「社員が同じ方向を向いていることが大切だ」と言われますが、本当にそうでしょうか。

 そもそも、同じ方向とは何でしょう。

 最終目標として、会社の利益や社会貢献につながるという意味で同じ方向を向いていることはとても大切だと思います。それが営利企業のあるべき姿です。

 しかし、同じナラティヴ(narrative、生きている物語)を生きることを強いるのは警戒すべきです。

 そこには、上司の考えを部下に強要する願望が見え隠れするからです。

 誰でも自分が提案したことにネガティブな反応をされたらショックです。

 しかし、何がショックだったのか、自らの感情を棚卸ししてみるのが肝心です。

 自分とは違う世界で生きていた現実を突きつけられた、味方だと思っていたのに裏切られた、という気持ちが湧き起こってきたのかもしれません。

 ただ、あなたの提案に価値がないわけではありません。相手のナラティヴとの間の溝にうまく橋が架からなかっただけです。では、そこからどうやっていこうかと考えることはできますし、仲間をつくっていくこともできます。

 同じ会社であっても、階層や部門、勤務地が違うだけで、私たちはともに異なるナラティヴを生きています。

 家族もそうです。

 妻と夫、子どもでは関わる人が異なりますから、まったく違うナラティヴを生きています。

 ただ、家族の場合、互いのナラティヴの溝に直面すると、必要以上に腹が立ったりすることはないでしょうか。

 私は家族よりも企業のほうが営利集団という資本主義的な合理性を共有できるので、まだやりやすいと思います。

 家族であっても、企業であっても、みんなが同じ方向を向いていないから、また別の視点から助け合えるのです。

 だから、同じ方向を向くことを目指さなくてよいのです。

 あなたが同じ方向を向くことを強いられたらどうでしょう。押しつけがましいな、暑苦しいなと感じ、反発すると思うのです。

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宇田川元一(うだがわ・もとかず)
経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。