最初は「低い生産効率を改善しよう」という物語から、「より高い目標を目指そう」という物語へ変容し、最後は「もっと世の中で自分たちのできることを成し遂げよう」という物語に至っています。しかし、その過程は、自分たちだけで課題を見つめ続けてもなかなか難しく、他者が入ることによって、物語が変容していくものでもありました。これは、大きな意味で、2 on 2の構図そのものではないかと思うのです。

 他者を交えながら自分たちにできることを見つけ、取り組んでいく。そうすると、組織が変わっていく。そういうことが現実に起きるのです。

 ほぼ全員、最初は無理だと思っていたことに向き合い、少しずつ小さな変革を重ねていく。すると、だんだん見える風景が変わっていく。そして、自分たちの会社の在り方まで変わってくる。

「トヨタイムズ」編集長の香川照之さんが、こう述べています。

「大きなことを変えるのではなく、どんなちっちゃなことでもいい。それがちょっとでも変えれば大きな結果が変わっていく。そのことをトヨタの現場のオヤジたちは知っていて、これがトヨタ生産方式なんだ。それがいろんなとこに応用できるんだなということがわかった」

 一つひとつはとても地味で目立たないけれど、たゆまぬ変革を積み重ねることで、大地をも揺るがす大きな変革へと至る過程。これこそ、私が本書を通じて読者のみなさんに取り組んでいただきたいと願うことです。

 それは「トヨタだからできる」でも「対話の達人だからできる」わけでもありません。

 どうやったらみんなでできるようになるか、それを考えたいと思ってこの本を書いたのです。

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宇田川元一(うだがわ・もとかず)
経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。