「バリ」「ギリ」「ムリ」で対策は大きく変わる

樺沢 確かにADHDの人は、会社員など、時間やスケジュールの厳守、細かいデータの管理などが求められるような仕事だと、苦しい思いをするケースが多いです。

逆にASD(自閉スペクトラム症)の人だと、コミュニケーションが得意ではない分、人と会わずに一人で没入、集中できる仕事として、膨大なデータを扱う経理や法務、プログラミングなど、ルーティンワークに向く傾向があります。

借金玉さんの本にも、「『向いていない仕事』を徹底的に避ける」というアドバイスがありますね。一度失敗すると自分に何が向いているかを知ることができ、自分の「鬼門」を見極められる、と。

借金玉 はい、向き不向きも含めて、自分のことをちゃんと知ることは何よりも大切だと思います。「発達障害の長所を生かそう!」とか「短所より長所に目を向けよう!」と言うのは簡単なのですが、現実的に働く中で「短所ばかり気になる」という状況に追い込まれ、どうにもできない生きづらさを感じている人もいます。

僕は発達障害の人を、勝手に「バリ」「ギリ」「ムリ」の3種類に分類して考えています。

「バリ」は、診断を受ければ「発達障害」ではあるけれども、これまで何も困らずに、仕事も人生もやってきた人たち。結局、発達障害の症状が明らかに出ている人でも人生うまくやれている人は厳然として存在しているんですよね。

「ギリ」は、多くの困難を抱えつつも、対策することでどうにかこうにか社会でやっていける人たちです。僕が本を書いている対象はここ。「天才」とか「大逆転」とかを狙うんじゃなくて、あたり前をやれるようになろう、というのが僕のスタンスですね。

「ムリ」は公的な扶助が必要な人たちです。この状態であれば、無理に働くことは命に関わります。二次障害のうつで寝込んでいる人も、ここに含まれます。僕自身、二次障害のうつで寝込んでいた時は、本1冊読むのも無理でした。

過集中の借金玉さんには「朝散歩」をおすすめします

樺沢 発達障害の特徴の一つに、過集中が挙げられます。これを仕事に活かして、例えば若いプログラマーとかだと、会社にテントを張って泊まり込むような生活をしている人は結構いますよね。借金玉さんも、似たような経験はありますか?

借金玉 僕も、本の中には「睡眠と休養が大事だ」と書いておきながら、過集中に入ると、5日間くらい連続徹夜で仕事をしてしまうことがあります。この前、パソコンのモニターが3Dに見えてきて驚きました……。僕は一度過集中が切れると2~3日動けなくなることがあるので、それが怖くて一旦過集中に入れたら、「どうせなら倒れるまでやるぞ」とやってしまうんですよね……。

樺沢 そうやって、一度生活のリズムが乱れ始めると体が十分に休まらなくなってしまいます。規則正しい生活に戻すには、朝起きたら太陽の光を浴びることが大事です。人間の体には、朝、太陽の光を浴びてから16時間後くらいに眠くなるよう、体内時計が組み込まれています。でも、夜更かしをして昼まで寝て、一日中外出しないまま夜が来ると、体内時計がリセットできないので眠気が出てこないんです。

借金玉 朝7時に寝ている僕のような人間が規則正しい生活を送るための、先生お勧めのTO DOがあれば教えていただけますか。

樺沢 僕は『ストレスフリー超大全』の中で「朝散歩」を勧めています。朝起きて1時間以内に、太陽の光を浴びながら散歩する。それにマインドフルネスを組み合わせるとよりベターです。

マインドフルネスとは、今、この瞬間に意識を集中させること。といってもそんなに難しくなくて、「あっ、鳥が鳴いてる」「風が聞こえる」という感じで、今、自分の周りで起きていることに集中しながら歩いてみてください。幸福感を引き起こす脳内物質であるセロトニンが分泌され、「今日も1日頑張ろう」というポジティブで前向きな気分に包まれる上に、仕事の集中力も高まります。

もし、散歩が辛ければ、ベランダに出て日の当たるところに座って、日向ぼっこや読書、仕事するとかでもいいので、とにかく太陽の光を浴びることが大事です。

借金玉 うっ。いきなり散歩ができるか微妙なので、僕は日向ぼっこから始めてみますね。

精神科医が語る「発達障害に向いている職業、鬼門になる職業」の見極め方【5月病に効く記事】借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』